お金を活かす(住まいと資産の活用)

住宅ローンで後悔しないための「返せる額」|借りる前に決める順番と計算の基本

「マイホーム購入は人生最大の買い物」と言われますが、同時に「最大の借金」を決める瞬間でもあります。

「今の家賃と同じくらいなら払っていけるはず」
「銀行が貸してくれると言っているから大丈夫だろう」

そう考えて契約を進めようとしているなら、少しだけ立ち止まってください。読者から寄せられる声の中には、購入後に「毎月の返済がこれほど負担になるとは思わなかった」と後悔するケースが少なくありません。

特に住宅ローンは、一度契約すると30年以上にわたり家計を固定してしまう契約です。制度上、銀行が提示する金額と、あなたが無理なく返せる金額には明確なズレがあります。

本記事では、金融知識に自信がない方でも判断できるよう、後悔しないための「返せる額」の算出ルールを整理します。

なぜ住宅ローンは「返せる額」を間違えやすいのか

多くの人が住宅ローンの予算決めでつまずくのは、計算が苦手だからではありません。そもそも「参考にする数字」の前提が、借りる側と貸す側で異なっていることが主な原因です。

ここでは、なぜ予算の見積もりが甘くなってしまうのか、構造的な理由を解説します。

銀行が教えてくれるのは「借りられる額」だけ

家探しを始めると、まず銀行や不動産会社で「いくらまで借りられるか」を試算することになります。しかし、ここで提示される金額(融資可能額)は、あくまで銀行側の視点で計算されたものです。

  • 銀行の視点: 年収に対して、貸しても焦げ付くリスクが低いギリギリの金額
  • 家計の視点: 日々の生活を楽しみ、将来の貯蓄をしながら払い続けられる金額

この2つは全く別物です。一般的に、銀行が提示する「借りられる額」は、生活実感として「返せる額」よりも数百万円〜1000万円ほど高く算出される傾向があります。「借りられるから借りる」という判断は、家計のリスク許容度を超えてしまう可能性が高いのです。

営業・展示場のシミュレーションが楽観的な理由

モデルルームや住宅展示場では、営業担当者が返済シミュレーションを作成してくれます。「今の家賃と比較しても、月々の支払いはこれくらいで済みますよ」という説明は魅力的ですが、ここには注意すべき落とし穴があります。

提示されるシミュレーションの多くは、以下の要素が考慮されていない場合があります。

  • 購入後の維持費: 固定資産税、都市計画税、修繕積立金(マンションの場合)など
  • 金利の上昇リスク: 変動金利の最低水準だけで計算されていることが多い
  • 変動費の増加: 戸建ての場合、光熱費やメンテナンス費用が賃貸時代より増える傾向

「家賃と同じ支払額」であっても、実際に出ていくお金は月数万円単位で増えることが一般的です。

「今払える」と「30年払い続けられる」の違い

現在の家計収支だけを見て「今の給料なら払える」と判断するのも危険です。住宅ローンは最長35年続くマラソンのようなものです。

  • 働き方が変わる(転職、独立、時短勤務など)
  • 家族構成が変わる(出産、介護など)
  • 健康状態が変わる

今の収入と支出バランスが30年間ずっと続くことは稀です。「今ギリギリ払える額」で組んでしまうと、何か一つ変化が起きただけで返済が困難になるリスクがあります。

「返せる額」は年収ではなく“家計の構造”で決まる

では、具体的に何を基準に予算を決めればよいのでしょうか。
基準にすべきは、額面の年収ではなく、実際に使えるお金と将来のライフプランに基づいた「家計の構造」です。

手取りベースで考えないとズレる理由

年収(額面)には、税金や社会保険料が含まれています。実際に生活費やローン返済に充てられるのは、口座に振り込まれる「手取り額」だけです。

ところが、金融機関の審査基準である「返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)」は、多くの場合額面年収で計算されます。

  • 額面年収での計算: 負担率30%でも余裕に見える
  • 手取りでの計算: 負担率が実質40%近くになり、生活費を圧迫する

このように、審査上の数字を鵜呑みにすると、実際の手取り収入に対して返済の割合が大きくなりすぎ、貯蓄ができなくなる恐れがあります。必ず「毎月の手取り」から「毎月の返済額」を引いて、残りで生活できるかを確認してください。

ボーナス返済が危険視される本当の理由

「月々の支払いを安く見せる」ために提案されるのがボーナス払いです。しかし、堅実な資産形成を目指すのであれば、ボーナス払いは利用しない、あるいは最小限に留めるのが鉄則です。

ボーナスは企業の業績に連動するため、支給額が約束されたものではありません。また、病気や育児休業などで働けない期間が出た場合、ボーナス自体が支給されないこともあります。

ボーナス払いのリスク

  1. 不確実性: 業績悪化や転職で減額・カットされる可能性がある
  2. 臨時支出との競合: ボーナスは本来、旅行、家電の買い替え、車検などの「特別費」や貯蓄に充てるべき資金

毎月の給与だけで返済できる計画にしておき、ボーナスは全額「貯蓄」や「将来の繰り上げ返済用」として確保しておくのが、リスクを避ける安全策です。

生活費が変わるタイミング(子ども・車・老後)

「返せる額」を決める上で見落としがちなのが、将来必ず訪れる支出の波です。特に以下の3つのタイミングは、家計へのインパクトが大きくなります。

  • 子育て・教育費: 大学進学時がピーク。公立・私立の進路によって数百万単位で変動する
  • 車の維持・買い替え: 地方などの車社会では、ローン返済と車の買い替え費用が重なる時期がある
  • 老後資金の積立: 定年退職までに住宅ローンを完済しつつ、老後資金を作る必要がある

これらの支出が発生しても返済を続けられる額こそが、本当の意味での「返せる額」です。現在の余裕資金をすべて住宅ローンに充ててしまうと、これらのライフイベントで家計が破綻する原因となります。

教育費を入れずに住宅ローンを組むと後悔しやすい

住宅購入を検討するタイミングは、結婚や出産と重なることが多いため、子どもの教育費がまだ「未知数」であることが一般的です。
しかし、ファイナンシャルプランニングの視点では、教育費を考慮せずに住宅ローンの上限を決めることは、将来の家計破綻を招く典型的なパターンとされています。

教育費は「見えない固定費」

子どもが小さいうちは、児童手当や自治体の助成があり、お金がかからないように感じがちです。しかし、教育費は成長とともに確実に増えていく「見えない固定費」と捉える必要があります。

学校の授業料だけでなく、以下のような周辺費用も計算に入れる必要があります。

  • 習い事・部活動費: 月謝に加え、合宿費や道具代、遠征費など
  • 塾・予備校代: 特に受験期には年間数十万〜100万円単位が必要になることも
  • スマホ・通信費・お小遣い: 年齢とともに増加する生活コスト

これらを「なんとかなる」と先送りせず、最初から毎月の支出として見積もっておくことで、住宅ローンに回せる本当の余力が浮き彫りになります。

習い事・塾・大学で何が起きるか

最も警戒すべきは「教育費のピーク」と「住宅ローンの返済」が重なる時期です。
一般的に、子どもが高校生から大学生になる時期に支出は最大化します。

【要注意な時期の重なり】
30代で購入した場合: 40代〜50代で教育費ピークが到来。この時期はまだ住宅ローンの残債も多く残っています。
教育費の実態: 大学進学(私立文系・自宅外通学の例)では、4年間で約700万円〜800万円程度の費用がかかるとも言われます(出典:日本政策金融公庫 教育費負担の実態調査など)。

もし「今の家計」ギリギリまで住宅ローンを組んでしまうと、このピーク時に家計が回らなくなり、教育ローン(借金)を重ねる悪循環に陥るリスクがあります。

住宅ローン優先で家計が硬直するリスク

「立派な家を買ったけれど、そのせいで進学を諦めさせた」
これは、何としても避けたい事態です。

住宅ローンは一度組むと、減額することが非常に難しい「硬直した固定費」です。一方で、教育費は子どもの希望や才能に合わせて変動します。

優先順位として、「住居費」を限界まで高めるのではなく、将来の「教育の選択肢」を残せる余白(バッファ)を家計に持たせておくこと。これが、子育て世帯が後悔しないための重要な防衛策です。

固定金利・変動金利は「返せる額」を決めてから考える

「変動金利と固定金利、どっちがお得?」
これは非常によくある質問ですが、実は考える「順番」が違います。金利タイプを選ぶ前に、まずは前述の「無理なく返せる総額」が決まっていることが大前提です。

金利タイプを先に選ぶと迷走する理由

多くの人は、月々の返済額を安く見せるために「金利の低いタイプ(変動金利)」から検討を始めがちです。
しかし、金利タイプはあくまで「返済手段」の選択に過ぎません。

  • 予算が決まっていない状態: 「変動金利なら月々〇万円で収まるから、もっと高い家が買える」と借入額を増やしてしまう
  • 予算が決まっている状態: 「この借入額なら、金利が上昇しても家計は耐えられるか?」と冷静にリスクを判断できる

借入額そのものが適正であれば、どの金利タイプを選んでも致命的な失敗にはなりにくくなります。逆に、借入額が過大であれば、どんなに低金利を選んでも将来のリスクは消えません。

「金利が低い=安全」ではない

変動金利は、固定金利よりも金利が低く設定されているため、当初の返済額は少なくなります。しかし、これは「金利変動リスクを借り手(あなた)が負う」ことの対価です。

  • 変動金利: 半年ごとに金利が見直される。市場金利が上がれば、将来的に返済額が増える可能性がある。
  • 固定金利: 全期間(または一定期間)金利が変わらない。市場金利が上がっても返済額は変わらないが、当初の金利は高め。

「今」の安さだけで変動金利を選び、ギリギリの予算でローンを組むと、将来金利が上昇した瞬間に支払いが困難になります。「低いから安全」ではなく、「低いけれど変動のリスクがある」という認識が必要です。

返済額のブレをどう許容するか

金利タイプを選ぶ最終的な決め手は、「将来、返済額が増えても対応できる余力があるか」です。

制度上、変動金利には「5年ルール(5年間は返済額が変わらない)」や「125%ルール(返済額が上がっても前回比1.25倍まで)」といった激変緩和措置があるケースが多いですが、これは支払いが先送りされるだけで、元金が減らないリスクを含んでいます。

判断の目安

  • 変動金利に向いている人: 借入額に余裕がある、貯蓄があり金利上昇時に繰り上げ返済ができる、共働きで収入増が見込める
  • 固定金利に向いている人: ギリギリまで借りたい、将来の教育費などが不安で住居費を完全に固定したい、金利動向を気にしたくない

どちらを選ぶにせよ、「金利が1〜2%上がっても生活が破綻しない借入額」に収めることが、最も確実なリスク管理です。

返せる額が決まると、家の予算は自然に決まる

ここまで「銀行の言うことを鵜呑みにしない」「教育費や金利リスクを考慮する」といった守りの視点をお伝えしました。これらを踏まえると、マイホームの適正予算は、物件価格からではなく、毎月の家計から逆算するしかありません。

住宅価格から逆算すると失敗する

物件検索サイトやモデルルームを見ると、「このエリアならこれくらいの価格」という相場観が先にインプットされます。すると、無意識にその価格に合わせて予算をストレッチ(無理をして拡大)しようとする心理が働きます。これが最も危険なパターンです。

正しい手順は以下の通りです。

  1. 毎月の返済上限を決める: (例:今の家賃 − 修繕積立金・固定資産税の積立分 − 将来の教育費積立 = 〇〇万円)
  2. 借入可能額を計算する: 決めた月額と金利(少し高めの金利設定で計算)から、30〜35年で借りられる元金を割り出す
  3. 物件価格の上限を知る: 借入額 + 用意できる頭金 − 諸費用 = 本当の物件予算

この順番を守れば、「素敵な家だけど生活が苦しい」という本末転倒な事態を防ぐことができます。

頭金を入れる/入れないの考え方

「頭金をたくさん入れれば、月々の返済が楽になる」と考えるのは自然ですが、ここにも落とし穴があります。
住宅購入時には、手付金や諸費用、引っ越し代、家具家電の購入費など、現金が一気に出ていきます。

最優先すべきは、ローンの総額を減らすことよりも、「購入直後の生活防衛資金」を手元に残すことです。

  • 目安: 生活費の3〜6ヶ月分 + 突発的な支出への備え
  • 判断: これを残した上で余剰資金があるなら頭金に入れる。ギリギリならフルローン(頭金なし)を選択し、現金を温存する方が、病気や転職などのリスクに強くなります。

「身の丈」の再定義

「身の丈に合った家」というと、我慢して質素な家を買うようなネガティブなイメージを持つかもしれません。しかし、ファイナンシャルプランニングの視点における「身の丈」とは、「今の生活レベルや楽しみを犠牲にせずに維持できる家」のことです。

  • たまの家族旅行に行ける
  • 子どもの習い事を応援できる
  • 美味しいものを食べに行ける

こうした「日々の豊かさ」を守れる予算こそが、あなたにとっての正解です。家という「箱」にお金をかけすぎて、中身の「生活」が貧しくなってしまっては意味がありません。

それでも不安な人へ:借りた後に考えることは別にある

最後に、これから大きな決断をするあなたへ。
ここまで厳しめの条件を提示してきましたが、契約前に全てを完璧にシミュレーションすることは不可能です。まずは「大枠」さえ間違っていなければ、あとは走りながら修正することができます。

返済が始まってから悩むポイントの予告

契約前に悩むべきは「借入総額」と「毎月の返済許容額」だけです。
逆に、以下のような細かい悩みは、実際に住み始めてから考えても遅くありません。

  • 「繰り上げ返済はいつやるべきか?」
  • 「将来のメンテナンス費用はどう運用して貯めるか?」
  • 「もし金利が上がったらどう借り換えるか?」

これらは、生活が落ち着いて家計の余力が見えてから対策を練れば十分間に合います。

繰り上げ返済・借り換えは“次のフェーズ”

住宅ローンは30年以上の長い付き合いになります。今の時点で30年後のことまで不安になる必要はありません。

重要なのは、スタートラインで「無理な荷物を背負いすぎないこと」。
余裕を持った返済計画でスタートさえすれば、将来収入が増えたタイミングで「期間短縮型の繰り上げ返済」をして利息を減らしたり、より条件の良いローンへ「借り換え」たりと、後からいくらでも打つ手はあります。

まとめ:まずは「無理のないスタートライン」に立つことが最優先

本記事では、住宅ローンで後悔しないための「返せる額」の考え方を解説しました。

  • 銀行が貸してくれる額は「借りすぎ」の可能性が高い
  • 手取り収入から、将来の教育費や老後資金を引いて考える
  • 金利タイプよりも「借入総額」の抑制がリスク回避の鍵

「月々の支払いが数千円増えるだけだから」という甘い見積もりは、35年という期間で数百万円の差になります。
まずはご自身の家計を振り返り、「家」と「生活」、どちらを優先したいかをご家族で話し合ってみてください。その基準さえ決まれば、もう怖いものはありません。

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