「投資を始めたいけれど、奨学金の返済が残っている」「住宅ローンがあるのに、貯金だけしていていいのか不安」
SNSや職場での会話で資産形成の話題が出るたび、こうした葛藤を抱える人が増えています。特に最近は「投資をしないと損」という風潮が強まる一方で、個人の家計状況、とりわけ「借金」がある場合の最適解については、情報が少なく曖昧なままです。
ネット上では「借金があるなら投資なんて論外」「低金利なら借りたまま運用すべき」といった極端な意見が飛び交っています。しかし、これらの議論で決定的に欠けているのは、「その人の借金が『どんな性質』のもので、いくら貯金があるのか」という前提条件です。
ある人にとっての正解が、あなたにとっては「損」になることも少なくありません。家計管理において最も避けるべきは、他人の成功体験をそのまま自分の家計に当てはめてしまうことです。
本記事では、感情や曖昧な一般論を一旦脇に置き、「金利」と「家計の安全性」という客観的なモノサシを使って、今のあなたが最優先すべき行動を決めるための基準を整理します。「早く返すべきか、手元に残すべきか」。その迷いを断ち切り、損のない選択をするためのステップを解説します。
借金があるときに「優先順位」で迷う本当の理由
家計を見直そうとしたとき、多くの人が「返済」「貯金」「投資」のバランスで手が止まってしまいます。なぜ、これほどまでに判断が難しいのでしょうか。その原因は、計算が苦手だからではありません。私たちの心の中にある「お金に対する固定観念」と、世の中の「情報の偏り」が、冷静な判断を邪魔しているからです。
まずは、正しい優先順位を決めるために、私たちの目を曇らせている3つの要因を紐解いていきましょう。
借金=悪という思い込み
私たちには「借金=悪いこと、恥ずかしいこと」という感覚が根強くあります。「借金がある状態は不健全だから、一刻も早くゼロにしなければならない」という精神的なプレッシャーは相当なものです。
この感情自体は、家計を引き締める上で大切な防衛本能です。しかし、この「感情」が強すぎると、家計の安全性を無視してまで返済を急いでしまうリスクがあります。
例えば、手元にある生活費まで切り崩して借金を完済した直後に、病気や失業で収入が途絶えたらどうなるでしょうか。借金はゼロでも、手元の現金もゼロであれば、生活は破綻してしまいます。そして皮肉なことに、生活費を補うために、より条件の悪い(金利の高い)新たな借金に手を出さざるを得なくなるケースも散見されます。
「借金=悪」と決めつける前に、「今ある借金は、家計を圧迫しているのか、それとも計画的に管理できているのか」を冷静に見極める必要があります。
貯金・投資が「善」に見えてしまう心理
借金への嫌悪感とは対照的に、貯金や投資には「善」「将来への備え」というポジティブなイメージがつきまといます。
これは心理的な満足感の違いも大きく影響しています。
- 返済: マイナスがゼロに近づくだけで、手元の資産は増えない(達成感が薄い)。
- 貯金・投資: 通帳や証券口座の数字が増えていく(達成感が大きく、安心できる)。
数字の上では「年利15%の借金を返済すること」は「年利15%で資産運用すること」と同じ、あるいはそれ以上の経済効果があります。確実性が違うからです。しかし、心理的には「借金を減らす」よりも「貯金を増やす」方が、資産形成をしている実感を持ちやすいのです。この心理的なバイアス(偏り)が、高金利の借金を放置したまま、低利回りの貯金やリスクのある投資にお金を回してしまうという、非効率な状態を生み出す原因となっています。
金利や条件が違うのに「借金」と一括りにされがち
「借金があるなら投資はするな」というアドバイスをよく耳にしますが、ここで言う「借金」とは具体的に何を指しているのでしょうか。
- 住宅ローン: 金利0.3〜1.0%程度(変動)。住宅ローン控除で税金が戻ってくる場合もある。
- 奨学金(貸与型): 無利子、あるいは上限3%程度の実質低金利。
- カードローン・リボ払い: 金利15.0〜18.0%程度。
これらをすべて同じ「借金」として扱い、同じ優先順位で語ることには無理があります。住宅ローンのように「低金利で、長く借りていた方が手元の資金繰りが良くなる借金」もあれば、リボ払いのように「持っているだけで資産を食いつぶす緊急性の高い借金」もあります。
「借金があるかどうか」ではなく、「その借金の金利(コスト)はいくらか」で判断しなければ、正しい優先順位は見えてきません。次章からは、この「金利」を基準にした具体的な判断方法を解説します。
結論は一つじゃない|優先順位は「金利」で変わる
「借金を返すのが先か、投資をするのが先か」。この問いに対する最も合理的な答えは、「借金の金利と、投資で期待できる利回り(リターン)のどちらが高いか」を比較することで導き出せます。
お金の世界には「金利」という絶対的なルールがあります。感情を一旦横に置き、数字で損得を見てみましょう。
金利=確定リターンという考え方
投資の世界では、プロでも年利5〜7%のリターンを出し続けるのは難しいと言われます。しかも、そこには「元本割れ」のリスクが常に伴います。一方で、借金の返済はどうでしょうか。
例えば、金利15%のリボ払いやカードローンがあるとします。これを繰り上げ返済して借金を減らすことは、「確実に年利15%の利益を出すこと」と経済的には同義です。
- 投資: 年利5%増えるかもしれないし、減るかもしれない(不確実)
- 返済: 確実に年利15%分の利息支払いがなくなる(確実)
「15%の確実な儲け」など、投資の世界には存在しません。つまり、高金利の借金がある場合、どんなに優れた投資商品を探すよりも、「返済」こそが世界で最も効率の良い資産運用となるのです。
低金利ローンと高金利借金の決定的な違い
では、すべての借金を最優先で返すべきかというと、そうではありません。ここで重要になるのが、「投資の期待リターン(一般的に年利3〜5%程度)」を基準にした線引きです。
| 借金の種類 | 金利の目安 | 投資との比較 | 優先すべき行動 |
|---|---|---|---|
| 高金利な借金 (リボ・カードローン) |
10.0〜18.0% | 借金 > 投資 | 返済一択 投資をしている場合ではないレベル。 |
| 中金利な借金 (自動車ローン等) |
2.0〜5.0% | 借金 ≒ 投資 | ケースバイケース 精神的負担が大きいなら返済優先。 |
| 低金利な借金 (住宅ローン・奨学金) |
0.1〜1.5% | 借金 < 投資 | 投資・貯金併用 あえてゆっくり返し、手元資金を運用に回す方が合理的。 |
住宅ローン(金利0.5%など)の場合、急いで返して利息を減らすよりも、その資金を年利3%〜5%が期待できるインデックス投資などに回した方が、長期的には資産が増える可能性が高くなります。「借金」という名前だけで判断せず、「その金利は、投資で稼げる期待値より高いか低いか」をチェックしてください。
「全部返してから貯金」は本当に正しい?
「借金があるうちは貯金なんてしてはいけない」と考える人がいますが、これは制度上、大きなリスクを伴います。
特に住宅ローンや奨学金のような「低金利・長期間」の借金の場合、手元の現金をすべて返済に充ててしまい、貯金がゼロになるのは危険です。なぜなら、一度返済してしまったお金は、困ったときにすぐ引き出せないからです(住宅ローンの繰り上げ返済などは特にそうです)。
例:
Aさん: 借金ゼロだが、貯金もゼロ。
Bさん: 借金はあるが、貯金が300万円ある。
もし明日、急な病気で働けなくなったら、生活が破綻するのはAさんです。Bさんは手元の300万円で当面の生活を守りつつ、毎月の返済を続けることができます。低金利の借金であれば、「完済」を急ぐあまり「現在の安全性(流動性)」を失わないよう注意が必要です。
貯金・返済・投資を同時に考えるための判断フレーム
金利による損得の理屈は分かりました。しかし、実際の家計では「理屈通りにいかない」こともあります。そこで、より実践的な手順として、どの順番でお金を割り振っていくべきか、3つのステップで整理します。
ステップ1:生活防衛資金という例外ルール
金利がどうであれ、最優先で確保しなければならないのが「生活防衛資金」です。これは「収入が途絶えても数ヶ月間暮らせるだけの現金」のことです。
- 目安: 生活費の3ヶ月〜6ヶ月分
- 保管場所: いつでも引き出せる普通預金
「リボ払いがあるから」といって、手持ちの現金を1円残らず返済に回してしまうと、冠婚葬祭や家電の故障など、ちょっとした出費でまた新たな借金をすることになります。これでは借金生活から抜け出せません。
まずは、最低でも生活費の1ヶ月分、できれば3ヶ月分が貯まるまでは、投資はもちろん、繰り上げ返済よりも「貯めること」を優先してください。これがすべての土台です。
ステップ2:キャッシュフロー視点で考える
ある程度の貯金ができたら、次は毎月のお金の流れ(キャッシュフロー)を確認します。ここで重要なのは、「毎月の収支がプラスになっているか」です。
もし、毎月の給料だけで生活費と借金返済が賄えず、ボーナス払いや貯金の切り崩しで耐えている状態なら、投資を始める段階ではありません。投資は「余剰資金」で行うのが大原則です。この段階の人は、投資情報を調べるよりも、固定費の見直しや借金の借り換え(おまとめローン等による金利引き下げ)で、毎月の収支を黒字化することに全力を注ぐべきです。
ステップ3:優先順位は「一直線」ではなく「配分」
生活防衛資金があり、毎月の収支も黒字。ここまで整って初めて、「返済と投資、どっちに多く回す?」という選択が可能になります。おすすめなのは、0か100かで考えず、借金の金利に応じて「配分」を変えるアプローチです。
【ケース別:余剰資金3万円の配分例】
-
高金利(リボ等)がある場合
返済:30,000円 / 投資:0円
解説:投資のリターンより利息コストが圧倒的に高いため、100%返済に集中。 -
中金利(教育ローン等)がある場合
返済:20,000円 / 投資:10,000円(つみたてNISA等)
解説:返済を優先しつつ、少額から投資の経験を積むバランス型。 -
低金利(住宅ローン等)のみの場合
返済:0円(繰り上げ返済なし) / 投資:30,000円
解説:低金利の恩恵を活かし、手元資金を運用に回して資産拡大を狙う。
このように、自分の状況に合わせて「パワー配分」を決めるのが、無理なく資産形成を続けるコツです。
借金があっても投資していい人・やめた方がいい人
ここまで「金利」と「順序」の話をしてきましたが、それでも「自分の場合はどうなんだろう?」と不安が残るかもしれません。最終確認として、今すぐに投資を始めてもいい状態か、それとも一旦ストップすべきか、具体的なチェックポイントを設けました。
投資してもいい人の条件
以下の3つ全てに当てはまる場合、借金(特に住宅ローンや奨学金)があっても投資を並行して問題ありません。むしろ、時間を味方につけるために早めにNISAなどを活用すべきフェーズです。
- 生活防衛資金が確保できている
(目安:生活費の3ヶ月〜6ヶ月分が普通預金にある) - 年利10%を超える高金利の借金がない
(リボ払い、カードローン、消費者金融の借入がない) - 10年以上の長期目線で投資ができる
(数年以内に使う予定のない「余剰資金」である)
この条件が揃っているなら、低金利の借金を抱えていても、それは家計にとって「健全なレバレッジ(テコ)」として機能しています。過度に恐れず、資産形成を進めてください。
参考:投資の基本|金融庁
投資を急ぐと危険なケース
一方で、以下のような動機で投資を始めようとしている場合は、「待った」が必要です。これらは投資ではなく「ギャンブル(投機)」に近い心理状態だからです。
- 「投資で儲けて、借金を一気に返したい」と思っている
投資は短期的には元本が減ることもあります。返済資金が減ってしまえば本末転倒です。 - 毎月の収支が赤字、またはギリギリである
日々の支払いに追われている状態で投資をすると、株価が下がったときの精神的ストレスに耐えられず、狼狽売り(損をして売ること)をする確率が跳ね上がります。 - リボ払いやキャッシングの残高がある
前述の通り、まずは確実なマイナス(高金利)を消すことが、最強の投資です。
参考:多重債務でお困りの方へ(リボ払い等への注意喚起)|金融庁
「やってる人がいる=正解」ではない理由
SNSでは「借金フルローンのまま株で億り人」といった景気の良い話を見かけるかもしれません。しかし、彼らがリスクを取れるのは、多くのケースで「失敗してもカバーできるだけの入金力(高収入)」や「別の資産」があるからです。
家計の耐久力は人それぞれ違います。「あの人がやっているから大丈夫」ではなく、「自分の家計は、万が一暴落が起きても生活が変わらないか?」を基準に判断してください。他人と比較して焦る必要は全くありません。
あなたの家庭ではどう決める?次に読むべき記事案内
優先順位の基本は「高金利借金の返済」→「生活防衛資金」→「投資」です。しかし、お金の問題は理屈だけで割り切れない部分もあります。最後に、あなたの性格や現在の悩みに合わせて、次に読むべき記事を紹介します。
感情が先に来るなら読む記事
「理屈では投資がいいと分かった。でも、やっぱり借金の残高を見ると胃が痛い…」
そう感じるのは、あなたが慎重で堅実な証拠です。無理に投資を始める必要はありません。まずは借金に対する不安やストレスを減らすための「家計管理」や「メンタル整理」から始めましょう。
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住宅ローン・教育費が絡むなら読む記事
「住宅ローン控除が終わったら一括返済すべき?」「教育費のピークと返済が被りそう」
このように、ライフイベントとセットで戦略を練りたい場合は、長期的なシミュレーションが必要です。
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優先順位は一度決めて終わりではない
家計の状況は日々変わります。今は「返済優先」でも、半年後にボーナスでリボ払いが完済できれば、その翌月から「投資優先」に切り替えられるかもしれません。
一度決めたルールに縛られすぎず、「半年に一度」くらいのペースで優先順位を見直すのがおすすめです。フィントク!では、その時々のあなたの状況に合わせた「判断のヒント」を発信し続けます。まずは今日、最初の一歩として「自分の借金の金利」を確認することから始めてみてください。