「将来のために、まずはつみたてNISA(新NISA)から」と資産形成を始めたものの、しばらく経つと「これだけで本当に十分なのだろうか?」という疑問が湧いてくることがあります。コツコツと積み上がる数字に安心感はあっても、SNSやニュースで目にする「急成長するIT株」や「価格変動の激しい暗号資産(仮想通貨)」といった、値動きの大きな資産が魅力的に映ることもあるでしょう。
投資の世界では、堅実な積立投資は「守りの資産」とされる一方で、値動きの激しい資産は「攻めの資産」に分類されます。これらをどう組み合わせるか、あるいは組み合わせないべきかという悩みは、投資に慣れ始めた多くの方が直面するステップです。
本記事では、長期の積立投資を土台に据えつつ、値動きの激しい資産をどのように家庭のポートフォリオに取り入れるべきか、その「判断基準」と「役割分担」を整理します。損を避けるための考え方を知り、納得感のある資産形成のヒントにしてください。
長期のつみたて投資と値動きの激しい資産は役割が違う
「どちらが儲かるか」という視点で比較されがちですが、そもそも積立投資と値動きの激しい資産では、投資としての「役割」が根本的に異なります。この違いを理解せずに混ぜてしまうと、価格が下がったときに冷静な判断ができなくなるリスクがあります。
積立投資は「土台」、リスク資産は「スパイス」
家庭の資産形成において、投資信託などを用いた「積立投資」は、建物を支える「土台(基礎)」のような存在です。10年、20年という長い時間をかけて、世界経済の成長の波に乗りながら、複利(利益が利益を生む仕組み)の効果を最大化させることを目的としています。
一方で、個別株やレバレッジ商品、暗号資産などの「値動きの激しい資産」は、例えるなら料理の「スパイス」です。土台がしっかりしているからこそ、少量を加えることで全体の収益性を高めたり、投資の楽しみを増やしたりする効果が期待できます。スパイスだけでお腹を満たそうとすると、家計の安定が損なわれる可能性があるため、主従関係を明確にすることが重要です。
短期で結果を求める資産と、10年・20年先を見据える資産
投資において「時間軸」を分けることは、失敗を防ぐ最大の防御策です。
- 積立投資の時間軸:20年後の教育資金や老後資金など。目先の数パーセントの下落は「安く買えるチャンス」と捉えるべき長距離走です。
- 値動きの激しい資産の時間軸:数ヶ月から数年、あるいは数日のサイクル。短期間で大きな利益を狙う代わりに、短期間で資産が半分になる可能性も受け入れる短距離走です。
この2つを同じ財布で管理してしまうと、「老後のための資金が、昨日の暴落で大幅に減ってしまった」という混乱を招きます。目的と期間を分けることが、家庭の平和を守る秘訣です。
同じ“投資”でも、期待する「リターン」と「心の持ちよう」が違う
積立投資に期待するのは「着実な成長」です。年利3〜5%程度の安定したリターンを目指し、日々のニュースに一喜一憂せずに放置できる状態が理想とされます。
一方、値動きの激しい資産に期待するのは「大きな飛躍」です。ただし、高いリターンを狙う分、価格が暴落した際に「夜も眠れなくなる」ほどのストレスを感じるようであれば、その資産は家庭の投資バランスに合っていないサインかもしれません。投資は「生活を豊かにするための手段」であり、生活の質を下げる要因になっては本末転倒です。
値動きの激しい資産を組み合わせる人が増える理由
なぜ、安定した積立投資があるにもかかわらず、リスクの高い資産を組み合わせようとする人が増えているのでしょうか。そこには現代特有の背景と、投資家の心理的な動機があります。
積立投資だけでは時間がかかりすぎるという焦燥感
積立投資の最大の弱点は「時間がかかること」です。複利の効果が目に見えて大きくなるのは、投資を始めてから10年、15年と経過した後半戦です。
「今の生活を少しでも早く楽にしたい」「数年後には大きな買い物をしたい」という希望を持つ場合、年利数パーセントの積み上げだけでは物足りなさを感じることがあります。こうした「成長のスピードを上げたい」という欲求が、値動きの激しい資産へ目を向けるきっかけとなっています。
インフレ・機会損失への不安
物価が上昇し続ける「インフレ」の状況下では、現金の価値は相対的に下がっていきます。また、特定の業界や新しい技術が急速に普及するニュースを見ると、「今投資しておかないと損をするのではないか(機会損失)」という不安も生じやすくなります。
「手堅い積立だけでは、インフレの波に飲まれてしまうかもしれない」という危機感が、より高い収益性を求めてリスクを取る動機の一つとなっています。
少額から挑戦できる環境が整い、実験的に始めやすくなった
かつて個別株や複雑な投資商品は、ある程度のまとまった資金が必要でした。しかし現在は、スマートフォンのアプリを通じて数百円から株が買えたり、ポイントを使って投資ができたりと、心理的・物理的なハードルが劇的に下がっています。
「まずは少額で試してみよう」という実験的な姿勢で始められるようになったことが、積立投資の「外側」にある資産に手を伸ばすハードルを下げています。
出典:金融庁「つみたてNISAの概要」(確認日:2025年12月24日)
出典:日本証券業協会「投資への関心と証券会社への期待」(確認日:2025年12月24日)
組み合わせを考えるときの3つの判断軸
「いくらまでならリスクを取っていいのか」という問いに対し、万人に共通する正解の金額はありません。しかし、家計を揺るがさないための「判断基準」は存在します。攻めの投資を取り入れる前に、以下の3つの軸でチェックしてみましょう。
1. 生活費や「生活防衛資金」と完全に切り離されているか
投資に回すお金は、大きく3つの色に分けて考えるのが理想的です。
- 使うお金:毎月の生活費や、1年以内に使う予定の現金
- 守るお金:急な病気や失業に備える「生活防衛資金」(生活費の3〜6ヶ月分が目安)
- 増やすお金:当面使う予定のない余剰資金
値動きの激しい資産に投じてよいのは、この中の「増やすお金」の一部のみです。特に、生活防衛資金を削ってリスク資産を買うことは、家計のセーフティネットを自ら取り払う行為になります。まずは「守るお金」が確保されていることが大前提です。
2. 失っても「普段の行動」が変わらない金額か
「もし明日、その資産が50%値下がりしたら?」と想像してみてください。その際、以下のような変化が起きそうであれば、リスクを取りすぎているサインです。
- 怖くなって積立投資まで解約したくなる
- 外食を控えたり、予定していた旅行をキャンセルしたりする
- 仕事中に何度もチャートを確認してしまう
値動きの激しい資産は、「最悪ゼロになっても、翌日からの生活ルーティンが1ミリも変わらない金額」の範囲内に収めるのが、家庭投資の鉄則です。
3. 目的が「資産形成」か「投資の実験・経験」か
その投資を行う目的を明確にしましょう。
- 資産形成が目的:老後資金や教育資金の上乗せ。この場合は、ある程度の安定性が求められます。
- 実験・経験が目的:最新技術(Web3やAI関連株など)への興味や、投資スキルの向上。
目的が「実験」であれば、少額から始めて知識を得ることに価値があります。しかし、それを「資産形成」の主軸に据えてしまうと、本来の目的である「将来の安心」がギャンブル性に脅かされてしまいます。「これは趣味の範囲」「これは将来のための土台」と、心の中でラベルを貼っておくことが大切です。
よくある失敗パターンとその原因
資産形成の現場では、良かれと思って始めた「組み合わせ」が裏目に出てしまうケースが少なくありません。代表的な失敗パターンを知ることで、同じ轍を踏まないようにしましょう。
比率を決めずに「なんとなく」の気分で買い増してしまう
よくあるのが、ニュースやSNSで特定の銘柄が話題になったとき、衝動的に購入してしまうケースです。
「今買えば儲かるかも」という感情に任せて購入を繰り返すと、気づいたときにはポートフォリオ(資産の組み合わせ)の大部分がハイリスクな資産で占められていた、という事態に陥ります。当初決めた「積立8割、リスク資産2割」といったルールが崩れると、一度の下落によるダメージが致命傷になりかねません。
価格下落時に、本来守るべき「積立側」まで疑い始める
値動きの激しい資産が暴落すると、心理的なパニックが「健全な積立投資」にまで飛び火することがあります。
本来、インデックスファンドなどの積立投資は一時的な下落を乗り越えて長期で運用すべきものですが、リスク資産の大きな損失を見て「投資自体が怖いものだ」と錯覚し、すべてを売却してしまうのです。役割を分けたはずの資産同士が、恐怖心によって一括りにされてしまうのが失敗の典型例です。
成功体験を過信して比率を上げすぎる
投資を始めて最初に利益が出ると、「自分には才能があるのではないか」「もっと資金を投入すれば早くリタイアできる」と考えがちです。
ビギナーズラックで得た利益を、実力だと勘違いして生活資金や教育資金までつぎ込んでしまうと、次に訪れる「相場の調整局面」で大きな代償を払うことになります。成功しているときほど、当初の「家庭目線のバランス」に立ち返る冷静さが求められます。
家族と共有していない状態で進める
家庭の資産形成において、パートナーに内緒で値動きの激しい投資を行うことは、将来的な不和の種になります。損失が発覚した際に信頼関係が崩れるだけでなく、成功時に気が大きくなって家計管理が甘くなるリスクもあります。「余剰資金の◯%だけ、勉強のために少しリスクのある投資をしてみる」と事前に共有しておくことが、精神的な安定にもつながります。
出典:国税庁「資産運用と税制」(確認日:2025年12月24日)
出典:金融庁「投資の基本」(確認日:2025年12月24日)
家庭目線で考える「無理のない投資バランス」
積立投資と値動きの激しい資産を組み合わせる際、最も大切なのは「世間一般の正解」ではなく「自分の家庭が納得できる比率」を見つけることです。
資産運用の「正解」は、ライフステージによって変化する
資産運用の世界では、リスクを取れる度合いを「リスク許容度」と呼びます。独身時代は「積立50:リスク資産50」で攻めることができても、教育費がかさむ時期には「積立90:リスク資産10」へシフトするなど、ライフイベントに合わせて柔軟にバランスを見直すのが家庭目線の正しいあり方です。
攻めと守りの黄金比?最初は「9:1」から始める慎重さを
家庭における「無理のないバランス」の目安として、以下のステップを検討してみてください。
- レベル1:全て積立投資(守り100%)
- レベル2:積立90%、リスク資産10%(少しだけスパイスを加える)
- レベル3:積立80%、リスク資産20%(投資の経験値を積む)
まずはレベル2から始め、価格が乱高下しても「これくらいなら気にならない」という感覚を確かめることが大切です。もし10%のリスク資産が気になって夜も眠れないのであれば、すぐにレベル1に戻るという「撤退基準」も決めておきましょう。
家族で共有する「資産の健康診断」を習慣に
半年に一度、あるいは年に一度のタイミングで、現在の資産状況を確認する「家族会議」を設けるのが有効です。数字だけでなく、「今の運用で夫婦ともに不安を感じていないか」という感情面も含めてメンテナンスを行うことで、投資が原因で家庭の空気が重くなるのを防ぐことができます。
まとめ:攻めるか守るかではなく「役割分担」
長期のつみたて投資と、値動きの激しい資産を組み合わせることは、決して「矛盾」ではありません。むしろ、両者の特徴を理解して使い分けることで、将来への安心感を持ちつつ、投資の可能性を広げることができます。
性格の違う資産を分けることが、長期継続のコツ
資産形成で最も避けるべきは、不安に耐えきれなくなって投資自体をやめてしまうことです。積立投資は「いつか使う未来」のために、値動きの激しい資産は「投資の可能性」を学ぶために。この2つを明確に区別し、それぞれの役割を尊重することで、市場がどんな状況になっても冷静に対処できるようになります。
「損をしたくない」気持ちを大切に、一歩ずつ進む
「難しいことは苦手、でも損はしたくない」という感覚は、家計を守る上で非常に健全な防衛本能です。その気持ちを無視して無理な投資に手を出す必要はありません。まずは新NISAなどを活用した堅実な積立で「土台」を固め、その上で「試してみたい」という前向きな好奇心が湧いたときだけ、少額から新しい扉を叩いてみてください。
出典:日本証券業協会「資産運用の基礎知識」(確認日:2025年12月24日)
出典:金融庁「ライフプランシミュレーション」(確認日:2025年12月24日)