「将来のお金が不安…新NISAも話題だし、何か始めなきゃ」
そう考えてランキング上位の投資信託を買ってはみたものの、日々の値動きに一喜一憂して疲れてしまう。そんな声が少なくありません。
実際に、読者から寄せられる相談の中にも次のような事例があります。
「老後のためにと始めた積立投資ですが、昨年の下落相場で『これ以上損したくない』と怖くなり、半年で全て売却してしまいました」(Aさん・30代会社員)
Aさんのように、資産形成に前向きでも「準備不足」で損をしてしまうケースは後を絶ちません。実は、投資で失敗しないために最も重要なのは「どの商品を買うか」ではなく、その手前にある「自分なりの判断軸」を持っているかどうかです。
本記事では、金融知識に自信がない方でも迷わず判断できるよう、投資を始める前に決めておくべき「3つのこと(目的・期間・リスク許容度)」を整理して解説します。これらが決まれば、自分に合った商品や金額は自然と見えてきます。
投資を始める前に「目的」を決めるべき理由
多くの人は「どの商品が儲かるか(What)」から調べ始めますが、投資のプロや経験者がまず考えるのは「なぜ投資をするのか(Why)」です。
目的があやふやなままでは、まるで地図を持たずに海に出るようなもの。少しの波(価格変動)で迷子になり、目的地にたどり着く前に船を降りてしまうことになりかねません。
なぜ目的がない投資は続かないのか
目的を決めずに「なんとなくお金が増えればいい」と考えていると、市場が暴落した際に冷静さを保てなくなります。
株価や基準価額は常に変動します。目的がない場合、資産が減っている画面を見ると「このままでは損をする」という恐怖が「将来の利益」への期待を上回り、狼狽して売却(損切り)してしまうことがよくあります。
しかし、金融庁も推奨する「長期・積立・分散投資」は、長く続けることで複利効果やリスク低減効果が期待できる手法です。途中でやめてしまえば、本来得られたはずの果実を手放すことになります。
- 目的がある場合:「これは20年後の老後資金だから、今の値下がりは関係ない(むしろ安く買えてラッキー)」と捉えられる。
- 目的がない場合:「資産が減った! 失敗した!」と捉えてしまう。
このように、目的は投資を続けるための「メンタルの防波堤」として機能します。
出典:
金融庁/資産形成の基本:NISA特設ウェブサイト(2025年12月確認)
金融庁/NISA早わかりガイドブック(2025年12月確認)
「老後」「教育費」「余剰資金」では運用スタイルが異なる
「お金を増やす」という行為は同じでも、そのお金を「何に使うか」によって選ぶべき手段は変わります。金融庁のNISA活用事例でも、ライフプランに応じた使い分けが紹介されていますが、大まかには以下のように分類して考えるのがスムーズです。
| 目的(使用時期) | 特徴 | 適した選択肢の例 |
|---|---|---|
| 老後資金 (20年以上先) |
時間を味方にできるため、一時的な下落リスクを許容しやすい。 | 全世界株式、先進国株式など (長期的な成長期待) |
| 教育資金 (10〜15年後) |
使う時期が決まっており、そのタイミングで暴落していると困る。 | バランスファンド(株式+債券) または預金との併用 |
| 余剰資金 (使途未定) |
生活に影響しないお金。 自分の好みを反映できる。 |
成長投資枠での個別株、 配当金狙いの投資など |
目的を明確にすることで、「いつまでに、いくら必要か」が逆算でき、そこから「どの程度のリスクを取って運用すべきか」が自動的に決まってきます。
夫婦で資産形成を始める際のアプローチ
家計全体で投資を考える際、夫婦間で温度差があるのはよくあることです。
一般的に、一方が「数字や理論(利回り重視)」で考え、もう一方が「安心感や直感(元本保証重視)」で考える傾向があります。
このとき、「投資しないと損だ」と相手を論破しようとするのは逆効果です。ここでも「目的」の共有がカギになります。
- NGな誘い方:「銀行に置いてても増えないからNISAやろうよ」
- OKな誘い方:「子どもが大学に行く時のために、今の貯金ペースだと少し足りないかもしれない。教育費の一部だけ、少し利回りが期待できる方法に回してみない?」
目的(子どものため、家族旅行のため)を共有し、その達成手段として投資を提示することで、慎重派のパートナーも「それなら少し検討してみようか」と前向きになれるケースが多いです。まずは「何のために」を夫婦ですり合わせることから始めましょう。
投資期間を決めない人ほど、短期の値動きに振り回される
目的が決まったら、次に考えるべきは「期間」です。
投資の世界では「いつまでそのお金を使わずに置いておけるか」が、勝率を大きく左右します。
多くの初心者が失敗するのは、数年以内に使う予定があるお金(結婚資金や住宅の頭金など)を、値動きの激しい株式投資に回してしまうケースです。使う直前に相場が暴落し、「泣く泣く損をして売る」という事態を避けるためにも、期間の概念を理解しておきましょう。
投資期間=「いつまで使わないお金か」
投資における期間とは、「積み立てる期間」のことだけではありません。「換金(現金化)せずに保有し続けられる期間」を指します。
例えば、手元に100万円あるとします。
- A: 3年後の車検と家族旅行に使いたいお金
- B: 25年後の老後生活に使いたいお金
この2つは全く性質が異なります。
Aのお金を株式などのリスク資産で運用するのは危険です。3年後にちょうど相場が悪化していた場合、回復を待つ時間がなく、損失を確定させざるを得ないからです。
一方、Bのお金であれば、途中で暴落があっても25年かけて回復・成長するのを待つことができます。
一般的に、株式投資などのリスク資産がその効果を発揮するには、最低でも10年〜15年以上の期間が必要だと言われています。日本証券業協会の資料でも、保有期間が長くなるほど、投資収益率のバラつきが小さくなり、リターンが安定する傾向が示されています。
出典:
日本証券業協会/投資の時間「長期投資の効果」(2025年12月確認)
長期・中期・短期で取るべきリスク許容度の違い
期間によって「どれくらいのリスク(値動き)を受け入れられるか」が変わります。
ざっくりと以下のようにイメージしてください。
- 短期(〜5年未満):
- 適した商品: 定期預金、個人向け国債
- 考え方: 元本割れは絶対に避ける。「増やす」より「守る」が最優先。
- 中期(5年〜10年):
- 適した商品: 債券重視のバランスファンドなど
- 考え方: 大きなリターンは望まず、インフレ負けしない程度を目指す。リスクは控えめに。
- 長期(15年以上):
- 適した商品: 全世界株式、先進国株式など
- 考え方: 途中の暴落は「安く買える機会」と割り切れるため、積極的なリターンを狙える。
「NISAがお得だから」といって、5年以内に使うお金まで株式インデックスファンドに入れてしまうのは、リスク管理の観点からは推奨されません。
「長期投資=完全放置」ではない理由とメンテナンス
「長期投資なら20年間ほったらかしでいい」という言葉もよく聞かれますが、これは半分正解で半分間違いです。
積立設定自体は自動で構いませんが、人生には変化があります。
例えば、子供が生まれて教育費の支出予定が変わったり、住宅購入で手元の現金が減ったりした場合、取れるリスクの許容度も変わります。
また、運用期間の終了が近づいたとき(例:老後資金なら60歳手前)には、株式の比率を下げて債券や現金を増やすなど、徐々に「守りの体制」へ移行する調整(リアロケーション)が必要です。
「決めた期間はずっと持ち続ける」のが基本ですが、数年に一度は「今の自分の状況に合っているか」を確認するメンテナンスを忘れないようにしましょう。
リスク許容度を決めない投資は、ほぼ確実に途中でやめる
3つの軸の中で最も抽象的で、かつ重要なのが「リスク許容度」です。
これは「自分がどれくらいの損(マイナス)までなら、精神的に耐えられるか」という尺度のことです。自分のリスク許容度を超えた投資をしていると、暴落時にパニックになり、正常な判断ができなくなります。
リスクとは「危険」ではなく「振れ幅(ボラティリティ)」
まず、言葉の定義を正しく理解しましょう。
日常会話での「リスク」は「危険なこと」「損をすること」を指しますが、投資の世界でのリスクは「リターンの振れ幅」を指します。
- ハイリスク・ハイリターン: 大きく儲かる可能性もあるが、大きく損する可能性もある。
- ローリスク・ローリターン: 大きくは儲からないが、大きく損もしない。
「リスクを抑える」とは「絶対に損しないようにする」ことではなく、「値動きの幅を小さくする」ことを意味します。
金融庁のNISA解説でも強調されている通り、リスクとリターンはトレードオフ(交換)の関係にあり、「ローリスク・ハイリターン(絶対に損せず、すごく儲かる)」という商品は詐欺以外には存在しません。
出典:
金融庁/投資の基本:リスクとリターン(2025年12月確認)
自分のリスク許容度を知るためのチェックリスト
自分がどれくらいのリスクに耐えられるかは、性格や環境によって決まります。以下の要素を複合的に見て判断しましょう。
- 年齢: 若いほど、失敗しても労働で取り返す時間があるため、リスク許容度は高くなる傾向があります。
- 資産状況: 資産全体に対して投資額が少なければ、リスクは取りやすくなります。
- 性格: 「1円でも減るのが嫌」という人はリスク許容度が低く、「一時的に半分になっても気にしない」人は高いと言えます。
【簡易チェック:睡眠安眠基準】
最も分かりやすい基準は「夜、ぐっすり眠れるか」です。
もし、日中の株価変動が気になって仕事が手につかない、あるいは夜中にふと気になってスマホで相場をチェックしてしまうようなら、それは明らかに「リスクの取りすぎ」です。その場合は、株式の比率を下げ、現金や債券の比率を高める必要があります。
生活防衛資金の確保とリスクテイクの関係
リスク許容度を高く保つための最強の武器は、「生活防衛資金」です。
これは、病気や失業などのトラブルがあっても、当面(一般的には生活費の3ヶ月〜6ヶ月分、自営業なら1年分程度)暮らしていけるだけの現預金のことです。
生活防衛資金が確保されていれば、投資しているお金が一時的に暴落しても「今の生活には影響しないお金だから」と余裕を持って構えることができます。
逆に、ギリギリの生活費まで投資に回してしまうと、暴落と生活苦が重なった時に、安値で資産を売って現金化しなければならなくなります。
「投資は余剰資金で」と言われるのはこのためです。まずは生活防衛資金を貯め、その土台の上でリスクを取るのが、資産形成の鉄則です。
3つが決まって初めて「何から始めるか」を考える
ここまで「目的・期間・リスク許容度」という3つの判断軸について解説してきました。これらが明確になって初めて、具体的な「手段(制度や商品)」を選ぶ段階に入れます。
多くの人が「NISAでおすすめの商品は?」と検索して悩みますが、3つの軸が決まっていれば、選ぶべき選択肢は自動的に絞り込まれます。ここでは具体的なケーススタディを交えて、その選び方のロジックを解説します。
商品・制度選び(NISA/iDeCo)は最後でいい理由
投資商品や制度は、あくまで目的を達成するための「道具」に過ぎません。道具から選ぶのではなく、作りたいもの(目的)に合わせて道具を選びましょう。
例えば、以下のように3つの軸を当てはめると、適した手段が見えてきます。
【ケースA:30歳・会社員】
- 目的: 老後資金の形成
- 期間: 30年以上(60歳以降まで引き出さない覚悟がある)
- リスク許容度: 毎月の安定収入があり、独身のため高めに取れる
- 適した選択肢:
- 制度: 所得控除のメリットが大きい「iDeCo(個人型確定拠出年金)」を優先し、溢れた分を「新NISA(つみたて投資枠)」へ。
- 商品: 長期的な成長を取り込む「全世界株式」や「米国株式」のインデックスファンド。
【ケースB:35歳・子育て世帯】
- 目的: 10年後の大学入学費用
- 期間: 中期(10年〜12年)
- リスク許容度: 入学時に元本割れしていると困るため、リスクは抑えたい
- 適した選択肢:
- 制度: いつでも引き出し可能な「新NISA(つみたて投資枠)」を活用。iDeCoは引き出せないのでNG。
- 商品: 株式だけでなく債券も含む「バランスファンド」を選ぶか、目標額の半分は確実な「預金」で貯め、残り半分で運用する併用スタイル。
このように、軸さえあれば、膨大な数の投資信託の中から自分に合わないものを消去法で外すことができ、「どれを買えばいいか」という悩みは解消されます。
投資初心者が陥りがちな「手段の目的化」
特に注意したいのが、「制度を使うこと」自体が目的になってしまう失敗です。
- 「iDeCoは節税になるから」と限度額いっぱいで始めた結果…
→ 急な冠婚葬祭や車の修理費が必要になった際、iDeCoのお金は60歳まで絶対に引き出せないため、手元の生活費が枯渇し、カードローン(高金利)を使う羽目になった。これでは本末転倒です。 - 「ポイント還元がお得だから」と無理にクレカ積立をした結果…
→ ポイントのために毎月の家計が赤字になり、貯蓄を取り崩している。
これらは全て「目的・期間・リスク許容度」の確認を飛ばして、「お得そうな手段」に飛びついた結果です。制度やポイントはあくまで「おまけ」であり、最優先すべきは「自分のライフプランに合っているか」です。
今日からできる「投資以前」の準備ステップ
いきなり商品を買うのではなく、まずは以下のステップで準備を整えましょう。地味な作業ですが、これが将来の資産を守る一番の近道です。
- 現状把握(家計の棚卸し):
毎月の収支をチェックし、「生活防衛資金(生活費の3〜6ヶ月分)」が確保できているか確認する。まだなら、投資より貯蓄を優先しましょう。 - 3つの軸の言語化:
「何のために(目的)」「いつまでに(期間)」「どんな気持ちで(リスク許容度)」投資をするのか、スマホのメモでも良いので書き出してみる。 - 口座開設の手続き:
証券口座の開設には数週間かかることがあります。軸を考えている間に、ネット証券(SBI証券や楽天証券など)の口座開設手続きだけ進めておくとスムーズです。
まとめ
投資の成否は、専門的な知識の量ではなく、始める前の「決め事」で9割決まります。
- 目的を決めることで、下落相場でも狼狽せずに続けられるようになる。
- 期間を決めることで、短期的な値動きに一喜一憂しなくなる。
- リスク許容度を決めることで、夜ぐっすり眠れる範囲で運用できる。
この3つの軸は、一度決めたら変えてはいけないものではありません。結婚、出産、住宅購入、転職など、ライフステージが変われば当然見直すべきものです。
大切なのは、周りの声や流行りの商品に流されるのではなく、「今の自分はどうしたいか」という軸を常に持っておくことです。
「難しそう」と立ち止まる必要はありません。まずは紙とペンを用意して、あなたが投資で叶えたい未来を書き出すことから始めてみてください。