お金を整える(家計の最適化)

生命保険・医療保険は本当に必要?「不要論」を鵜呑みにしないための考え方

「将来のお金が不安で、少しでも固定費を削りたい……」そう考えて家計を見直すと、真っ先に目につくのが「生命保険」や「医療保険」の保険料です。

最近ではSNSやYouTube、ビジネス書などで「保険はいらない」「保険に入るのはマネーリテラシーが低い証拠」といった強い言葉を目にすることが増えました。一方で、親世代からは「万が一に備えて入っておくのが常識」と言われ、板挟みになって混乱している読者の方も多いのではないでしょうか。

実際、インターネット上の集合知や口コミを要約してみると、以下のような声が目立ちます。

  • 「高い保険料を払うくらいなら、その分を新NISAで運用した方が合理的」
  • 「日本は公的保障が充実しているから、民間保険は基本的に不要」
  • 「結局、保険会社が儲かる仕組みになっていて、加入者は損をする」

こうした合理的な意見が目立つ一方で、「いざ大きな病気になったときに貯金だけでは足りず、後悔した」という切実な事例もゼロではありません。「不要論」を信じて保険を解約した後に、もしものことがあったら? 逆に、今のまま払い続けて、老後の資金が足りなくなったら?

本記事では、溢れる情報に惑わされず、読者が「自分の状況に合った納得のいく決断」を下すための物差しを整理します。特定の正解を押し付けるのではなく、なぜ不要論が叫ばれるのか、そして「あなたの場合はどうなのか」を冷静に見極める視点をお伝えします。


なぜ「生命保険・医療保険はいらない」と言われるのか

テレビCMや街の保険ショップでは「備えの重要性」が説かれる一方で、ネット上ではなぜこれほどまでに「不要論」が支持されているのでしょうか。まずは、その背景にある構造と、私たちが陥りやすい心理的なポイントを整理します。

不要論が注目を集める背景(SNS・YouTubeの影響)

近年、YouTubeやSNSで活躍するインフルエンサーの多くが「保険不要論」を唱えています。これには、現代ならではの「効率性へのこだわり」が影響しています。

  • 投資効率の最大化: 「月1万円の保険料を、年利5%で30年運用したら約830万円になる」といったシミュレーションにより、保険料を「将来の資産を減らすコスト」として強調する発信が増えました。
  • 情報の民主化: 以前はプロしか知り得なかった「保険の原価(純保険料)」や「付加保険料(保険会社の運営費)」に関する情報が広まり、商品としてのコストパフォーマンスに疑問を持つ人が増えたのです。

不要論が刺さりやすい人の心理

保険に対するネガティブな意見が受け入れられやすいのには、私たちが日常的に感じている不満も関係しています。

  1. 目に見えないサービスへの負担感: 住宅や車と違い、保険は「何も起きなければ手元に残らない」ものです。毎月の固定費として家計から消えていくことに対し、「損をしている」という心理が働きやすくなります。
  2. 複雑さへの忌避感: 保険商品は特約や条件が複雑で、自分が何に対していくら払っているのか把握しにくいのが現状です。「よく分からないものにお金を払いたくない」という健全な防衛本能が、不要論という明快な結論を後押しします。
  3. 営業手法への不信感: 過去に強引な勧誘を受けたり、義理で加入せざるを得なかったりした経験から、保険業界全体に対してネガティブな先入観を持つケースも少なくありません。

不要論が“極論”になりやすい理由

ネット上で語られる不要論の多くは、実は「ある特定の条件」を前提としています。しかし、発信のインパクトを強めるためにその前提条件が省略され、結果として「誰にとっても不要」という極論に聞こえてしまうことがあります。

例えば、「貯金が1,000万円以上ある独身者」にとっての不要論と、「貯金が100万円で小さい子供が2人いる世帯主」にとっての不要論では、全く意味が異なります。発信者は「もしものことが起きなかった成功者」である場合が多いため、確率論としては正しくても、個別の家計における「もしも」が起きた際のダメージについては、十分に語られないというバイアスがあることを理解しておく必要があります。


「必要」「不要」は立場によって180度変わる

保険の必要性を議論する際、最も重要なのは「一般論」ではなく「自分自身の属性」です。住んでいる場所、家族構成、預金残高によって、保険の価値は大きく変わります。

ライフステージで変わる「守るべきもの」の重さ

「今」誰を支え、どのような責任を負っているかによって、必要な備えは異なります。

  • 独身・若年層: 守るべき家族がいない場合、死亡保障の優先度は極めて低くなります。自分の医療費や働けなくなった時の生活費さえカバーできれば良いため、多くの場合、貯蓄があれば民間保険の必要性は低いと判断されます。
  • 共働き世帯(子供なし): 片方の収入が途絶えても、もう一方が働き続けられるのであれば、過剰な保障は不要です。ただし、住宅ローンの有無や生活水準によっては、一定の収入保障が必要になるケースもあります。
  • 子育て世帯: 最も保障の必要性が高まるステージです。自分に万が一のことがあった際、子供の教育費や残された家族の生活費を「今ある貯金」だけで賄えるでしょうか。ここで「NO」となる場合は、保険という仕組みを利用する合理性が生まれます。

貯蓄額と収入の安定性が判断の分かれ目

「保険がいらない」と言い切れる最大の根拠は、「自己負担力(現金の蓄え)」の有無にあります。

カテゴリ 貯蓄が十分にある人(例: 500万円〜) 貯蓄が少ない人(例: 50万円未満)
医療保障 貯金から支払えるため民間保険は不要。 入院・手術による急な出費が生活を圧迫するため検討。
死亡保障 遺された家族が生活できるなら不要。 教育費や生活費が枯渇するリスクがあるため必要性が高い。
主な考え方 運用に回して資産を増やすべき。 保険を「貯金ができるまでのつなぎ」と捉える。

また、公務員や大企業の会社員のように福利厚生が充実している場合と、休業が即収入ゼロに直結するフリーランスや自営業者では、備えるべき金額が大きく異なります。

公的保障制度を正しく理解しているか

日本の公的保障は非常に強力です。以下の制度を正しく理解していれば、民間保険への依存度を下げることができます。

  1. 高額療養費制度: 1ヶ月の医療費に上限を設ける制度です。一般的な年収(約370万〜770万円)であれば、窓口で100万円請求されても、自己負担額は約9万円で済みます。
  2. 遺族年金: 万が一の際、残された家族に支給されます。子供の数や加入している年金の種類で金額が変わります。
  3. 傷病手当金: 病気やケガで働けなくなった際、給与の約3分の2が最長1年6ヶ月支給されます(※会社員などの健康保険加入者が対象)。

一方で、「差額ベッド代(個室代)」や「食事代」「先進医療の技術料」は公的保障の対象外であるという現実も忘れてはいけません。公的保障を「過信」せず、かといって「軽視」もしないバランス感覚が不可欠です。


生命保険・医療保険を考えるときの3つの視点

「結局、自分には保険が必要なのか」を判断するために役立つ、3つの思考の枠組みを提示します。

リスクを「確率」ではなく「影響度」で考える

金融リテラシーの観点から重要なのは、発生確率よりも「もしそれが起きた時の、家計へのダメージ(影響度)」です。

  • 発生確率:低 / 影響度:大(例:一家の大黒柱の死亡)
    → めったに起きないが、起きたら家計が破綻する。これが「保険で備えるべきリスク」です。
  • 発生確率:高 / 影響度:小(例:風邪での通院、数日の入院)
    → よくあることだが、数万円で済む。これは「貯金(生活費)で賄うべきリスク」です。

保険は損得ではなく「役割」で考える

保険の本来の役割は、「資産形成が完了するまでの間の時間を買うこと」にあります。資産形成の効率を優先するなら、「守り」に徹した掛け捨て型でコストを抑え、浮いたお金を「攻め」の投資(新NISAなど)に回すのが合理的です。

不安をどうコントロールしたいか

お金の問題は数字だけでは割り切れません。「パパは合理性(不要論)」「ママは安心感(必要論)」と意見が分かれるのはよくある光景です。どちらかが正しいわけではなく、「いくら払えば、家族全員が安心して眠れるか」という家計のバランスポイントを探ることが大切です。


「不要論」をそのまま自分に当てはめる危うさ

SNSやYouTubeで語られる「保険不要論」を、プロセスを飛ばして真似することにはリスクが潜んでいます。

発信者と読者では「前提条件」が根本的に違う

インフルエンサーが「保険はいらない」と言う背景には、以下のような「防波堤」があることがほとんどです。

  • すでに数千万円の金融資産があり、医療費をキャッシュで払える。
  • 自分が動けなくても収入が入る「ストック収入」がある。
  • 万が一の際に親族の支援(資金援助や同居)が期待できる。

失敗談が表に出にくい理由(発信バイアス)

ネット上には「保険を解約して正解だった」というポジティブな声が溢れています。しかし、「保険に入っていなくて困窮した人」は、その状況をSNSで発信する余裕がありません。こうした切実なケースは可視化されにくいため、「保険がなくて困った人はいない」という誤った印象を受けやすいのです。


最終判断は「自分の立場」を決めてから

納得のいく決断を下すためには、最終的に以下のスタンスを明確にする必要があります。

どこまで自分でリスク(自己責任)を取れるか

「保険に入らない」という選択は、「何かあった時の責任をすべて自分で負う」という宣言です。最低でも半年〜1年分の「生活防衛資金」があり、かつ公的保障でカバーできない費用(100万〜200万円程度)を即座に動かせるなら、不要論を実践する準備ができていると言えます。

何に安心をお金で買いたいか

保険料を「損失」ではなく、「リスクを保険会社に肩代わりしてもらうための外注費」と考えてみてください。「入院中に金銭的な不安を感じたくない」といった具体的な安心に対して納得して支払う保険料は、家計における「必要経費」です。

「今日決めなくてもいい」という選択を持つ

保険は一度解約して体調を崩すと、二度と同じ条件で加入できない特性があります。「今は貯金が少ないから、あと300万円貯まるまでは継続しよう」といったように、判断を保留する条件を決めることも立派な戦略です。


考え方が整理できたら次にやること

「保険の要不要」についての物差しが手に入ったら、次は具体的な家計の最適化に移りましょう。

  1. 現状把握に戻る: 今の収支、すぐに動かせる現金の額、現在の保障内容を可視化しましょう。
  2. 具体的な整理に進む: 公的保障でいくらもらえるかをシミュレーションし、不足分を計算します。

「不要論」というフィルターを通した後に残った「本当に必要な保障」だけに絞り込むことで、家計のムダは劇的に減り、その分を将来のための資産形成に回せるようになります。


【出典・参照元】

-お金を整える(家計の最適化)