「ニュースで『金利のある世界』になったと聞くけれど、結局私たちの生活はどう変わるの?」「投資しているお金が減ってしまうのでは?」
こうした不安の声が、最近多くの読者から寄せられています。特に、これから資産形成を本格化させようと考えている層にとって、金利の変動は「仕組みが複雑で、どう動けばいいか分からない」と感じさせる大きな壁になりがちです。
例えば、家計管理に熱心な会社員のAさん(30代)は、こう話します。「これまでは『貯金よりも投資』と言われて積立を始めましたが、金利が上がると株価が下がると聞いて混乱しています。逆に、金利が上がることで得をする投資先はないのでしょうか?」
SNSや口コミサイトを見ても、「銀行株を買っておけば安心」「いや、債券価格の下落に注意すべき」といった断片的な情報が飛び交い、何が自分に合っているのか判断しづらい状況です。
金利が上昇する局面では、向かい風を受ける資産がある一方で、「追い風」を受けて価格が上がりやすくなる資産も存在します。本記事では、金利変動の基本的な仕組みを整理し、リスクを抑えながら資産を守り・増やすための選択肢を解説します。
金利が上がると資産価格はどう動く?まずは“基本の仕組み”を整理
「金利が上がると、投資商品の価格はどうなるのか」。この問いに答えるためには、まず金利がお金の世界でどのような役割を果たしているか、その「基本の力学」を理解することが近道です。
金利が上がると何が変わる?(家計・借入・投資の3視点)
金利の上昇は、私たちの財布に対して「プラス」と「マイナス」の両面から影響を与えます。一般的に以下の3つの視点で整理すると、影響が見えやすくなります。
- 家計(預金者)の視点:
銀行にお金を預けた際にもらえる「利息」が増えます。長らく続いた「預けても増えない時代」からの変化と言えます。 - 借入(ローン利用者)の視点:
住宅ローン(特に変動金利)や自動車ローンなど、お金を借りる際のコスト(返済額)が増加します。これから借りる人だけでなく、すでに変動金利で借りている人にも影響が及びます。 - 投資(運用者)の視点:
ここが最も重要なポイントです。金利が上がると、安全な資産である「預金」や「国債」の魅力が増します。そのため、リスクを取って株式などに投資していた資金が、より安全で利回りの良い債券や預金へと移動しやすくなります。これが、一般的に「金利が上がると株価全体の重荷になる」と言われる理由です。
金利と資産価格の「逆相関・連動」の基礎知識
投資の世界には「シーソーの関係」と呼ばれる基本的なルールがあります。特に「債券」と「金利」の関係は、初心者の方が最初につまずきやすいポイントですが、以下のイメージを持つと理解しやすくなります。
- 金利が上がる ➡ すでに発行されている債券の価格は下がる
- 金利が下がる ➡ すでに発行されている債券の価格は上がる
なぜでしょうか。例えば、あなたが「年利1%」の債券を持っているとします。その後、世の中の金利が上がり、新しく「年利3%」の債券が発行されたとしましょう。
投資家たちは、あなたの持っている「1%の債券」よりも、新しい「3%の債券」を欲しがります。そのため、あなたの持っている債券は人気がなくなり、安く売りに出さないと買い手がつかなくなります。これが、金利上昇時に債券価格が下がる仕組みです。
覚えておきたいポイント
金利上昇は、すでに保有している「固定金利の債券」や、借金をして運営している企業の株価にとっては逆風(価格下落要因)になりやすい傾向があります。
金利上昇が追い風になる資産は何か(全体マップ)
では、すべての投資先がダメになるのかというと、そうではありません。金利が上がる環境下で、収益が増えたり、価値が見直されたりする資産もあります。
【金利上昇が追い風になりやすい資産の例】
- 銀行株など金融セクター:
貸出金利が上がることで、銀行の利益(利ざや)が増える期待が高まります。 - 変動利付国債:
世の中の金利に合わせて、もらえる利息が増えるタイプの国債です。 - 外貨(高金利通貨):
日本よりも海外の金利が高い場合、金利の高い通貨にお金が集まりやすくなります(円安要因)。
金利上昇で“価格が上がる可能性のある投資先”を資産クラス別にチェック
「金利が上がると価格が上がる」と言っても、その理由は資産ごとに異なります。ここでは代表的な4つの資産クラスについて、メリットと注意点を整理します。
銀行預金・短期債:利息上昇のメリットとインフレ負けのリスク
最も身近な恩恵は、銀行預金の金利アップです。大手銀行やネット銀行が定期預金の金利を引き上げると、元本保証で確実な利息を受け取れるようになります。
- メリット:
元本割れのリスクがほぼなく、待機資金(すぐに使う予定のない現金)の置き場所として有利になります。 - 注意点(インフレ負け):
ここが盲点です。もし預金金利が0.2%になっても、モノの値段(物価)が年に2%上がっていたらどうなるでしょうか。お金の額面は増えても、買えるモノの量は減ってしまいます。これを「実質的な資産の目減り(インフレ負け)」と呼びます。金利上昇局面では、物価上昇も同時に起きていることが多いため、預金だけで資産を守るのは難しい場合があります。
外貨・為替:金利差拡大による通貨価値の変化
為替市場(円高・円安)は、各国の金利差に大きく影響を受けます。お金は基本的に「金利の低いところ」から「金利の高いところ」へ流れる性質があります。
- 仕組み:
例えば、アメリカの金利が高く、日本の金利が低いままだと、投資家は円を売ってドルを買おうとします。その結果、「ドル高・円安」が進みます。 - 投資への影響:
外国株式や外貨預金を持っている場合、円安が進むと、円換算での資産価値は増加します。ただし、日本の金利が上昇し、海外との金利差が縮まると、逆に「円高」へ振れて資産価値が目減りするリスクもあるため、各国の金融政策の方向性を確認することが重要です。
コモディティ(エネルギー・資源):インフレ・金利との連動性
金(ゴールド)、原油、穀物などの「コモディティ(商品)」は、金利そのものというより、金利が上がる原因となる「インフレ(物価上昇)」に強い資産です。
- インフレとの関係:
モノの値段が上がる局面では、資源価格も上昇していることが一般的です。そのため、現金の実質価値が下がる時の「守りの資産」として機能します。 - 金利との関係に注意:
特に「金(ゴールド)」は、それ自体が利息を生みません。そのため、預金や債券の金利が極端に高くなると、「金を持っていても利息がつかないから損だ」と判断され、売られやすくなる(価格が下がる)側面もあります。あくまで「インフレへの備え」として捉えるのが賢明です。
REIT・不動産:金利上昇がもたらすプラス要因とマイナス要因
不動産投資信託(REIT)や不動産投資については、プロの間でも見方が分かれる難しい局面です。プラスとマイナスの綱引きが起こるためです。
| 要因 | 影響の内容 |
|---|---|
| マイナス要因 | 不動産購入のための借入金利が上がり、コストが増える。これが利益を圧迫し、基準価額の下落圧力になる。 |
| プラス要因 | 金利が上がる背景が「好景気」であれば、オフィスや住宅の賃料アップが期待でき、収益が増える。 |
一般的に、急激な金利上昇はREIT価格にとってネガティブ(価格下落)に働くことが多いとされています。しかし、緩やかな金利上昇で景気も良い場合は、賃料収入の増加が評価されることもあります。「金利が上がる=暴落」と決めつけず、景気の良し悪しとセットで判断する必要があります。
金利が上がると“株価が上がる国内銘柄”はどれ?注目セクターを解説
株式市場には、金利が上がると株価が下がりやすい業種(不動産や新興IT企業など)がある一方で、逆に業績アップが期待され、株価の追い風になる業種も存在します。
これらはよく「金利上昇メリット株」と呼ばれます。代表的な4つのセクターを見ていきましょう。
銀行株:貸出金利の改善と収益構造
金利上昇の恩恵を最も直接的に受けるのが銀行です。銀行のビジネスモデルの基本は、「低い金利でお金を預かり、それに利益を乗せて高い金利で貸し出す」こと。この金利の差を「利ざや」と呼びます。
- なぜ上がる?:
低金利時代は、貸出金利も極限まで低く、「利ざや」がほとんど取れない厳しい状況でした。しかし、市場の金利が上がれば、銀行は企業や個人への貸出金利を引き上げることができます。預金金利の上昇よりも貸出金利の上昇の方が収益へのプラス効果が大きくなりやすいため、業績改善(=株価上昇)の期待が高まります。
保険株:運用利回りの改善メリット
特に生命保険会社などの保険株も、金利上昇に強いセクターとして知られています。
- なぜ上がる?:
保険会社は、契約者から預かった巨額の保険料を、長い期間をかけて国債や外国債券などで運用し、将来の保険金支払いに備えています。
金利が上がると、新しく購入する債券の利回り(リターン)が良くなるため、資産運用による収入が増加します。これが会社の利益を押し上げ、株価にとってもポジティブな要因となります。
証券株:市場活性化と収益機会の変動
証券会社も金融セクターの一角として、金利上昇局面で注目されることがあります。
- なぜ上がる?:
金利が動くときは、為替や株価も大きく動く傾向があります。市場の値動き(ボラティリティ)が活発になると、投資家の取引回数が増え、証券会社の手数料収入が増える可能性があります。また、証券会社自身が保有する資金の運用益が増加することもプラス要因です。
ただし、金利急騰で株価全体が暴落して市場が冷え込むと、逆にマイナスになることもあるため、銀行株ほど単純な連動ではない点に注意が必要です。
商社株:コモディティ価格や為替との関係性
日本の大手総合商社は、エネルギーや金属資源などの権益を多く保有しています。
- なぜ上がる?:
金利が上がる背景には、多くの場合「インフレ(モノの値段の上昇)」があります。原油やガス、鉱物などの資源価格が上がると、商社の利益は大きく膨らみます。
また、海外との金利差によって「円安」が進んでいる場合、海外で稼いだ利益を円に換算した際の金額が増えるため、業績の上振れ要因となります。高配当な銘柄が多いのも特徴で、インフレ時代の投資先として人気があります。
実際にどう選ぶ?利上げ局面における国内株セクターの“強み・注意点”
「じゃあ、銀行株や商社株を買えば絶対に儲かるの?」というと、投資に絶対はありません。
「金利が上がれば上がる」というのはあくまで教科書的なセオリーであり、実際の市場では別のリスクが発生することもあります。購入前に必ず知っておきたい注意点を整理します。
金融セクターのリスク(景気後退懸念と不良債権)
銀行株は金利上昇に強いですが、金利が上がりすぎることによる副作用もあります。
- 景気後退のリスク:
金利が高くなると、企業は設備投資のためのお金を借りにくくなり、個人の住宅ローン負担も増えます。これによって世の中の景気が悪くなると、銀行からお金を借りる人が減ってしまいます。 - 貸し倒れ(不良債権)の増加:
不景気で倒産する企業が増えると、貸したお金が返ってこなくなる「不良債権」が増加します。これが銀行の利益を食いつぶしてしまう可能性があるのです。
「金利上昇=銀行株買い」と盲信するのではなく、景気全体の強さもあわせて確認する必要があります。
商社株のコモディティ連動リスクと市況感
商社株は資源価格に大きく左右されるため、値動きが荒くなりやすい(ハイリスク・ハイリターン)特徴があります。
- 資源価格の反落:
世界経済が減速し、原油や金属の需要が減れば、資源価格は下落します。すると、商社の利益も急速に縮小し、株価が下落するリスクがあります。
「配当利回りが高いから」という理由だけで投資すると、株価そのものが下がって損をする可能性があるため、資源価格のニュースには敏感になる必要があります。
高配当株としての機能と「見かけの利回り」の落とし穴
金利上昇局面では、安定した配当を出す「高配当株」が好まれますが、ここにも罠があります。
- 見かけの利回りに注意:
配当利回りは「1株あたりの配当金 ÷ 株価」で計算されます。
業績が悪化して株価が下がった結果、計算上の利回りだけが高くなっている銘柄(いわゆる「高配当の罠」)が存在します。
こうした銘柄は、その後に「減配(配当金を減らすこと)」を発表し、さらに株価が下がるケースも少なくありません。「利回りランキング」だけで選ばず、過去の業績推移や配当の実績を確認することが不可欠です。
リスク分散:特定セクターへの集中を避ける重要性
ここまで「金利上昇に強いセクター」を紹介してきましたが、最も重要なのは「それだけに集中投資しないこと」です。
相場のテーマは移ろいやすいものです。金利上昇テーマが終われば、主役は再びIT株や成長株に戻るかもしれません。
ポートフォリオ(資産の組み合わせ)の全てを銀行株や商社株にするのではなく、これらを「スパイス」として一部組み入れる、あるいはインデックスファンド(市場全体への投資)をコアにしつつサテライト(補完)として持つなど、バランスを保つことが、長く資産形成を続けるコツです。
金利上昇局面でのポートフォリオ設計:再現性のある考え方
特定の株を買うだけでなく、家計全体で「金利上昇」にどう備えるか。ここからは、明日から実践できる資産配分(ポートフォリオ)の考え方と、やってはいけないNG行動について解説します。
リスク許容度×金利局面で考える資産配分フレーム
資産形成の正解は、その人の「リスク許容度(どれくらい損に耐えられるか)」によって変わります。金利上昇期には、以下のフレームワークで自分の立ち位置を確認してみましょう。
- 守り重視タイプ(元本確保優先)
戦略: 恩恵を確実に受ける。
アクション: 普通預金から、金利が上がり始めた「定期預金」や「個人向け国債(変動10年)」へ資金を一部移動させる。これだけで、リスクを負わずに利息収入を増やせます。 - バランス重視タイプ(資産形成層)
戦略: インフレ負けを防ぎつつ、成長を取り込む。
アクション: 全世界株式(オールカントリー)などのインデックス投資を継続しつつ、サテライト(補完)として「国内の高配当株」や「銀行株ETF」などを少し組み入れる。債券価格の下落リスクがあるため、外国債券の保有比率は慎重に検討します。
短期・中期・長期での投資先の組み合わせ事例
お金を使う時期に合わせて投資先を分ける「タイムバケツ」の考え方は、金利上昇局面でも有効です。
- 【短期】使う予定があるお金(数年以内):
定期預金・個人向け国債(変動10)
金利上昇の恩恵(利息アップ)を直接享受でき、かつ元本割れしません。 - 【中期】教育資金など(10年程度):
バランス型投信・高配当株
インフレに対抗しつつ、ある程度のリターンを狙います。 - 【長期】老後資金(20年以上):
株式インデックス(全世界・米国)
短期的には金利上昇で株価が下がることもありますが、20年単位で見れば、金利や景気の波を乗り越えて成長していくことが過去のデータからも期待できます。ここで慌てて売らないことが鉄則です。
住宅ローン・教育費など「家計」と金利上昇の関係
30代〜40代の子育て世代にとって、投資以上に影響が大きいのが「負債(ローン)」です。
- 住宅ローン(変動金利)利用者の方へ:
投資で利益を狙う前に、「金利が上がった場合の返済増額分」をシミュレーションしてください。もし返済が苦しくなるようなら、手元の余剰資金を「投資」ではなく「繰り上げ返済」や「貯蓄」に回し、足場を固めるのが最優先です。
「投資の利回り > ローン金利」の状態であれば投資優先も合理的ですが、精神的な安心感を重視するなら、借金を減らすことも立派な資産形成です。
金利上昇時に避けたい“NGな投資行動”
環境が変わった時に焦ってやってしまいがちな失敗があります。
- 保有している債券や株を狼狽(ろうばい)売りする
「金利が上がって債券価格が下がった!もうダメだ」と底値で売ってしまうのが最悪のパターンです。長期投資であれば、保有し続けることで満期には元本が戻る(債券の場合)ことや、株価の回復を待つことができます。 - 流行りの「テーマ株」に全財産をつっこむ
「これからは銀行株だ!」と集中投資するのはギャンブルに近い行為です。トレンドが変わった時に資産が激減するリスクがあります。あくまで分散投資の一部として扱いましょう。
まとめ:金利が上がる時こそ、投資先を“構造”で理解しておく
最後に、本記事の要点を振り返ります。
今回のポイント振り返り
- 金利と債券価格はシーソーの関係: 金利が上がると、既発の債券価格は下がりやすい。
- 追い風になる資産がある: 銀行預金、銀行株、保険株などは金利上昇がメリットになり得る。
- インフレへの視点を持つ: コモディティや商社株は、金利そのものよりインフレ(物価高)対策として機能する。
- 家計全体で見る: 投資の利益だけでなく、住宅ローンの金利負担増にも備えるバランス感覚が大切。
金利と資産価格の“因果関係”を押さえて冷静な判断を
「金利上昇」というニュースを聞くと不安になるかもしれませんが、これは経済が次のフェーズへ動いている証拠でもあります。
「なぜ価格が動くのか」という仕組み(因果関係)さえ知っていれば、一時的なニュースやSNSの煽りに振り回されることはなくなります。
「金利が上がったから、預金の一部を国債に移そう」「株価が下がっているけれど、長期目線では買い時かもしれない」と、冷静に次の手を考えられるようになるはずです。
国内銘柄は選択肢の一つ:広い視野で資産形成を
今回は国内の銀行株や商社株を紹介しましたが、これらはあくまで選択肢の一つです。
最も大切なのは、あなた自身のライフプランに合った資産配分を維持すること。特定の資産に賭けるのではなく、広い視野で「金利のある世界」を味方につけ、堅実な資産形成を続けていきましょう。