「NISAで金(ゴールド)を買おうか迷っているけど、本当に大丈夫?」「損はしたくない」
そう考えて検索しても、出てくるのは「金は最強の安全資産」「今すぐ買うべき」といったおすすめ記事ばかりで、逆に不安になってしまう——。そんな声が編集部に寄せられます。
特に20代後半から40代の子育て世代にとって、大切なお金を減らすリスクは絶対に避けたいもの。リーマンショックやコロナ禍のような暴落を知っているからこそ、「絶対安全」という言葉を鵜呑みにできないのは当然の防衛本能です。
この記事は、あえて「金ETFへの投資をおすすめする」スタンスを取りません。
むしろ、「金ETFにはどんなリスクがあるのか」「どんな人が損をするのか」というネガティブな側面を、包み隠さず整理します。
良い面だけでなく、構造的な弱点やNISA制度との相性の悪さまで知った上で、それでもご自身の家計に必要かどうか。その判断材料としてご活用ください。
金ETFは本当に安全なのか?よくある誤解と真実
「有事の金」という言葉があるように、金は世界情勢が不安定なときに買われる傾向があります。そのため「金を持っていれば安心」というイメージが定着していますが、投資商品として見た場合、必ずしも「安全=損をしない」わけではありません。
まずは、よくある誤解と実際の値動きの性質について整理します。
金価格は常に右肩上がりではない
「金価格は長期的に上がり続けている」という説明をよく見かけますが、これは「切り取る期間」によります。たしかに数十年単位で見れば上昇トレンドにありますが、その過程には長い低迷期(冬の時代)が存在したことは無視できません。
例えば、過去の市場データを振り返ると、金価格が最高値を更新した後、数年〜10年近くにわたって価格が伸び悩んだり、下落したりした期間もありました。
- 上昇期: インフレ(物価上昇)懸念が強い時期や、地政学リスクが高まった時期
- 低迷期: 世界経済が安定し、株式市場が好調な時期
株式が右肩上がりの成長を期待される「攻めの資産」であるのに対し、金はあくまで「守りの資産」としての性質が強いため、世界が平和で経済が順調なときは、価格が上がりにくい傾向にあります。「買えば必ず増える」と信じて高値でつかんでしまうと、数年間含み損を抱える可能性もゼロではありません。
「無リスク資産」という言葉の落とし穴
金融の世界では、国債などを「無リスク資産」と呼ぶことがありますが、金(ゴールド)は無リスク資産ではありません。株式と同じように、毎日価格が変動する「リスク資産」の一つです。
「安全資産」と呼ばれる本当の意味は、「会社のように倒産して価値がゼロになることがない」という点に尽きます。
- 株式: 発行企業が倒産すれば、株券はただの紙切れになる可能性がある(信用リスク)。
- 金(ゴールド): 金という物質そのものに価値があるため、価値がゼロになることはない。
この「ゼロにならない」という点が安全と言われる理由ですが、それは「価格が下がらない」ことを保証するものではありません。市場の需給バランスによって、10%〜20%程度の価格変動(ボラティリティ)は常に起こり得ます。
株より安全とは限らないケース
「株は怖いけど、金なら大丈夫」と考える方がいますが、実は金ETF特有の複雑なリスク要因があります。その一つが為替リスクです。
国際的な金の取引は「米ドル」で行われます。私たちが日本円で金ETFを買う場合、以下の2つの要素が価格に影響します。
- ドルの金価格: 世界市場での金の値段
- ドル円為替: 1ドルが何円か
仮にドルの金価格が上がっていても、それ以上に急激な「円高」が進んだ場合、日本円での評価額は下がってしまうことがあります。
逆に、円安が進んでいる局面(1ドル100円→150円など)では、金価格そのものが変わらなくても、日本円での見た目の価値は上がります。近年、日本国内で金価格が最高値を更新し続けている背景には、この「円安」の影響も大きく関わっています。
つまり、金ETFを持つということは、間接的に「為替(ドル)」への投資をしているのと同じことになります。「日本円を守りたい」という意味では有効ですが、為替の動き次第では、株式以上に資産価値が目減りするリスクがある点には注意が必要です。
出典:
日本証券業協会「広告等に関する指針」(リスク開示の重要性について)
https://www.jsda.or.jp/shijyo/seido/jishukisei/web-handbook/103_koukoku/230701_koukokushishin.pdf
OANDA証券「金(ゴールド)ETFとは?メリットやデメリット、リスクなどを紹介」
https://www.oanda.jp/lab-education/beginners/aboutcfd/gold-etf/
知っておくべき金ETFの主なデメリットとリスク
金ETFには、株式や債券、銀行預金にはない「構造上の弱点」がいくつか存在します。特にNISAなどの非課税制度で長期運用を考える場合、このデメリットが資産形成の足を引っ張る可能性があります。
ここでは、購入前に必ず知っておくべき3つのデメリットを解説します。
最大の弱点「配当・利息」が出ない
金投資における最大のデメリットは、「持っているだけでは1円も生まない」という点です。
- 株式: 企業が利益を出せば「配当金」がもらえる。
- 債券・預金: お金を預けている期間に応じて「利息」がつく。
- 不動産: 人に貸せば「家賃収入」が入る。
- 金(ゴールド): 配当も利息も家賃も、一切ない。
これを専門用語で「インカムゲイン(定期収入)がない」と言います。金はあくまで「物質」であるため、財布に入れておいても勝手に増えないのと同じ理屈です。
資産形成において、利息が利息を生む「複利効果」は非常に重要ですが、金にはそのエンジンがついていません。利益を出すためには、買ったときよりも高く売る(キャピタルゲイン)しか方法がなく、「安く買って高く売る」というタイミングの判断がすべてになります。
ほったらかしで資産雪だるま式に増やしたいと考えている人にとっては、この「何も産まない」性質は大きなマイナスポイントと言えます。
長期リターンでは株式に劣る場面が多い
「お金を増やす」という目的に特化した場合、過去の歴史を見ると、金は株式のリターンには及びません。
米国の著名な経済学者ジェレミー・シーゲル博士の研究(『株式投資の未来』などで知られるデータ)によると、過去200年間の資産推移を比較した場合、株式が圧倒的なリターンを叩き出しているのに対し、金のリターンは限定的でした。
- 株式: 企業活動によって新しい価値やサービスを生み出し、経済全体を拡大させるため、指数関数的に成長する力が強いとされます。
- 金(ゴールド): 新しい価値を生み出すわけではないため、基本的には「インフレによる通貨価値の下落」をカバーする程度の成長に留まります。
つまり、「20年後に資産を2倍、3倍にしたい」というような積極的な資産形成を目指すフェーズでは、金ばかりに投資をしていると、株式に投資していた場合と比べて資産が増えるスピードが遅くなる(機会損失)リスクがあります。
保有コスト(信託報酬)による目減り
金ETFは「現物の金」を裏付けとして運用される投資信託の一種ですので、持っている間ずっと「信託報酬(管理費用)」がかかります。
一般的に年率0.2%〜0.4%程度と低コストではありますが、配当金が出ない金ETFにおいて、このコストは純粋なマイナス要因です。
「なにもしなくても毎年少しずつ手数料が引かれ続ける」状態になるため、金価格が横ばいの年であれば、手数料分だけ確実に資産が減っていくことになります。
タンス預金としての金貨(現物)なら保管コストはかかりませんが、ETFという金融商品の形で持つ以上、この「見えないコスト」が発生し続ける点は理解しておく必要があります。
NISAで金ETFを使うときの注意点と「もったいない」説
2024年から始まった新NISA制度。「せっかく非課税枠があるなら、安全そうな金ETFで埋めたい」と考える方もいますが、実は制度の仕組み上、金ETFはNISAの恩恵を最大限に活かしにくい側面があります。
ここでは、なぜNISAで金を買うのが「もったいない」と言われることがあるのか、その理由を解説します。
非課税メリットを活かしきれない可能性
NISAの最大のメリットは「利益に対して税金がかからないこと」です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISAならそれが0円になります。
このメリットは、「利益が大きければ大きいほど」効果を発揮します。
例えば、将来的に2倍、3倍になる可能性を秘めた「全世界株式」や「S&P500」などの株式ファンドであれば、非課税になる金額も大きくなります。
一方で、金はあくまで「守りの資産」であり、株式のような爆発的な成長は期待しにくい商品です。期待リターンが低い(利益の幅が小さい)商品に貴重な非課税枠を使ってしまうことは、結果として「節税できるはずだった金額」を小さくしてしまう可能性があります。
売却タイミングの難しさ
前述の通り、金には配当金がありません。そのため、NISA口座で運用していても、売却して現金化するまでは非課税メリットを実感できるタイミングがないのです。
- 高配当株の場合: 定期的に入る配当金がまるまる非課税で受け取れる(メリットを実感しやすい)。
- 金ETFの場合: ずっと持ち続けているだけでは恩恵なし。自分で「今が高い!」と判断して売らなければならない。
投資初心者にとって「いつ売るか」を決めるのは非常に難しい判断です。「もっと上がるかも」と欲を出して売り時を逃したり、逆に下がったときに焦って売ってしまったり。出口戦略を自分で決めなければならない点は、心理的な負担になるかもしれません。
「NISA枠を金に使う」是非の判断基準
では、NISAで金を買うのは絶対にNGなのでしょうか? 結論としては、「NISAの枠(年間最大360万円、総枠1,800万円)が余っているかどうか」が判断基準になります。
- これから資産形成を始める人(枠がガラガラ):
まずは期待リターンの高い「株式ファンド(オルカンなど)」を優先して枠を埋めるのがセオリーです。あえて最初から金で枠を消費する必要性は低いでしょう。 - すでに資金に余裕がある人(枠を使い切れそう):
株式だけで枠を埋めるのが怖い、またはすでに十分な株式を持っている場合は、NISAの「成長投資枠」の一部を使って金ETFを持つのは合理的な選択です。課税口座(特定口座)で持つよりは、当然NISA口座で持った方が有利だからです。
出典:
金融庁「NISA特設ウェブサイト」(制度概要)
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html
三菱UFJ信託銀行「金(ゴールド)投資のメリット・デメリット」
https://www.tr.mufg.jp/davis/column/010.html
それでも金ETFが向いている人・向いていない人
ここまでリスクやデメリットを強調してきましたが、それでも金が「優れた分散投資先」である事実に変わりはありません。重要なのは「誰が」「何のために」持つかです。
金ETF投資が向いている人の特徴
以下のような状況にある方にとって、金ETFは頼もしいパートナーになります。
- すでに株式などの「コア資産」がある程度積み上がっている人
例:iDeCoやつみたてNISAを数年続けており、資産額が数百万円を超えてきた。 - 資産の変動(アップダウン)にストレスを感じやすい人
株価暴落のニュースを見ると夜も眠れないタイプの方。金を持つことで、資産全体の変動をマイルドに抑える効果が期待できます。 - 現金(日本円)の比率が高すぎる人
貯金は十分にあるが、インフレで円の価値が下がるのが怖い。でも株に全額突っ込むのは怖いという場合の「置き場所」として。
金ETFをおすすめできないケース
逆に、以下のような方には、現段階での金ETF投資はおすすめしません。
- 20代〜30代前半で、資産形成の初期段階にある人
今は「守り」よりも「増やす」時期です。複利効果が効かない金を持つことで、資産形成のスピードを落としてしまう恐れがあります。 - 短期間でお金を大きく増やしたい人
金は一攫千金を狙う道具ではありません。 - 配当金(不労所得)生活に憧れている人
配当が出ないので、目的と手段が一致しません。
家計フェーズ別の考え方
- 独身・共働き(貯めどき):
リスクを取れる時期なので、金は不要か、持ってもごく少量でOK。株式中心で攻めるのが一般的。 - 子育て中(教育費がかかる):
絶対に減らしたくない教育資金のプール先としては、元本割れリスクのある金よりも「現金・預金」が最強です。投資用の余剰資金がある場合のみ、守りの一部として検討。 - リタイア前後(取り崩し期):
現役引退が近づくと、暴落で資産が半減するのは致命傷になります。この時期こそ、株式の比率を下げ、金や債券の比率を高めて「守り」を固める意義が大きくなります。
金ETFとどう付き合うか?家計全体での現実的な位置づけ
最後に、これから金ETFを取り入れる場合の現実的なバランスについて整理します。
主役ではなく「調整役(サテライト)」としての金
家計の資産運用において、金ETFは「主役(メインディッシュ)」ではありません。あくまで、主役である株式や現金をサポートする「調整役(スパイスやサラダ)」です。
- 主役: 全世界株式、米国株式(資産を増やすエンジン)
- 土台: 現金・預金(生活防衛資金)
- 調整役: 金(ゴールド)
この役割分担を間違えて、資産の半分以上を金にしてしまうと、家計全体がインフレ以外の要因で増えなくなってしまいます。
株式とのバランスと保有比率の目安
一般的に、個人のポートフォリオ(資産構成)における金の比率は「5%〜10%程度」が目安と言われています。
例えば、投資用資金が100万円あるなら、そのうちの5万円〜10万円分だけ金ETFを持つイメージです。これくらいの割合でも、株価暴落時に「金は上がっている(あるいは下がっていない)」という事実は、精神的な安定剤として十分に機能します。
持ちすぎないことで得られる「心の安定」
「金ETFは危険?」というタイトルの記事でしたが、結論として「中身を知らずに過信して大量に買うこと」が危険なのであって、性質を理解して少量持つ分には、金は非常に優秀な保険です。
「もし世界的な不況が来たらどうしよう」という不安のブレーキがかかって投資自体に進めないくらいなら、お守り代わりに少額の金ETFを持ってみる。それによって安心して夜眠れるなら、配当が出ないデメリット以上の価値があると言えるかもしれません。
もし「少しだけ持ってみようかな」と思えたなら、次は「具体的にどの銘柄を買えばいいのか」「手数料が安いのはどれか」を知るステップです。
自分に合った金ETFの選び方については、こちらの記事で詳しく比較しています。