お金を整える(家計の最適化)

子育て世帯に就業不能保険は必要?収入減リスクを見極める判断軸

「将来のお金が不安……」そう考えて家計を見直す際、多くの人がまず検討するのが「死亡保険」や「医療保険」です。しかし、子育て世帯にとって、実は死亡リスクと同じか、あるいはそれ以上に家計を圧迫しかねないのが「働けなくなるリスク」です。

「死ぬわけではないけれど、病気やケガで長期間収入が途絶えてしまう」
このような状態になったとき、住宅ローンや教育費、日々の生活費といった支出は止まってくれません。特に働き盛りの30代・40代にとって、無収入の期間が長引くことは、これまでの貯蓄を一気に切り崩し、将来の資産形成プランを大きく狂わせる要因となります。

本記事では、入院費をカバーする医療保険や万一に備える死亡保険とは一線を画し、「収入が止まるリスク」だけにフォーカスして解説します。公的保障でどこまで守られるのか、自分たちにはどれほどの不足分が生じるのか。感情論ではなく、数字と制度に基づいた「損をしないための判断基準」を整理していきましょう。


子育て世帯が「働けなくなる」と何が一番困るのか

子育て世帯において、家計を支える側が働けなくなった際、真っ先に直面するのは「支出の継続」と「収入の断絶」のアンバランスです。独身時代であれば「実家に頼る」「生活水準を極限まで落とす」といった選択も可能ですが、子供がいる世帯ではそうはいきません。

生活費・住宅費・教育費は止まらない

病気やケガで療養中であっても、家族の生活は続いていきます。食費や光熱費はもちろんのこと、住宅ローンの返済や家賃、さらには子供の習い事の月謝や塾代といった「固定費」は、本人の健康状態に関わらず毎月発生します。

医療保険に加入していれば入院中の治療費や食事代はある程度カバーできるかもしれません。しかし、退院後の自宅療養期間や、通院しながらリハビリを続ける期間の「生活費そのもの」を補填する仕組みは、一般的な医療保険には含まれていないことがほとんどです。

共働きでも油断できない理由

「うちは共働きだから、一方が倒れてももう一人の収入でカバーできる」と考える世帯も少なくありません。しかし、現代の子育て世帯の多くは、夫婦二人の合算収入を前提とした生活水準を設定しています。

例えば、ペアローンで住宅を購入していたり、双方の収入を前提に教育資金を積み立てていたりする場合、片方の収入が途絶えるだけで家計は一気に赤字へと転落します。また、看病や家事の負担がもう一方に集中することで、健康な側の労働時間やパフォーマンスが削られ、結果として世帯全体の所得がダブルで減少するリスクも無視できません。

短期と長期で違うダメージ

一口に「働けない」と言っても、その期間によって家計へのダメージは質が異なります。数週間程度の入院であれば、有給休暇の消化や数ヶ月分の生活防衛資金(貯蓄)で対応可能です。

本当の意味で家計を揺るがすのは、がんの治療、脳血管疾患による後遺症、あるいはメンタルヘルス不調による数年単位の長期療養です。数年間にわたり月々の給与が激減、あるいはゼロになる状態は、教育資金の準備を止めるだけでなく、老後のための資産形成を切り崩す事態を招きます。この「長期戦」に耐えられるかどうかが、備えの必要性を判断する最大のポイントです。


意外と知られていない「公的・会社の支え」

「働けなくなったら即、生活が破綻する」と過度に恐れる必要はありません。日本には会社員や公務員を中心に、収入減を支える公的な仕組みが整っています。まずは自分たちが現在、どのようなセーフティネットに守られているのかを正しく把握することが、不要な保険料を払わないための第一歩です。

健康保険の傷病手当金の基本

会社員や公務員が加入する健康保険には「傷病手当金」という制度があります。これは、病気やケガで連続して4日以上仕事を休んだ際、4日目から最長で1年6カ月の間、休んだ日数分だけ支給される手当です。

支給額の目安は「ざっくり給与の3分の2」です。正確には、直近12カ月間の標準報酬月額(税金や社会保険料が引かれる前の額面給与の平均)を30で割った額の3分の2が、日額として計算されます。つまり、1年半という期間に限れば、現役時代の約6割〜7割程度の収入は公的に保障されていると言えます。

会社の制度(休職・補償)がある人/ない人

公的保障に加えて、勤務先の福利厚生も重要なチェックポイントです。

  • 大企業や公務員:「付加給付」として傷病手当金に上乗せがあるケースや、数ヶ月〜数年の「有給の病気休職制度」が整っている場合があります。この場合、自己負担で備えるべき範囲は非常に小さくなります。
  • 中小企業:法定通りの傷病手当金のみであることが一般的です。
  • 自営業・フリーランス:国民健康保険には、原則として傷病手当金がありません。働けなくなった瞬間から収入がゼロになるリスクが最も高いため、会社員以上に慎重な備えが求められます。

制度を知らないことが不安を大きくする

「もし倒れたら、明日から1円も入ってこなくなる」という誤解は、往々にして過剰な保険加入を招きます。「傷病手当金で月収の約3分の2は確保できる」という前提があれば、残りの「3分の1の不足分」と、制度が切れる「1年半後以降のリスク」だけを考えれば済むようになります。

まずは給与明細で自分が加入している健康保険組合を確認し、傷病手当金の詳細や会社の就業規則にある休職規定をチェックしてみてください。守られている範囲を明確にすることで、本当に必要な保障額を逆算できるようになります。


それでも埋まらない「収入の穴」はどこか

公的保障である傷病手当金は非常に強力ですが、万能ではありません。子育て世帯が特に注意すべきなのは、制度の「期限」と「計算の根拠」です。ここを見落とし、楽観視しすぎると、いざという時に生活が立ち行かなくなる恐れがあります。

支給期間が終わった後の問題

傷病手当金の最大の弱点は、支給期間に終わりがあることです。現在の制度では、支給開始日から通算して「1年6カ月」までと定められています。

もし1年半を過ぎても就業できない状態が続いた場合、次に頼るべきは「障害年金」となります。しかし、障害年金は傷病手当金に比べて受給のハードルが高く、支給額も現役時代の給与より大幅に下がるケースが一般的です。子供の成長に伴い教育費が増していく時期に、この大幅な収入減をどう埋めるかが大きな課題となります。

ボーナス・残業代はカバーされない

傷病手当金の算出根拠となる「標準報酬月額」には、基本的に残業代やボーナスが含まれません。

  • 残業が多い人:普段、残業代込みの月収で家計を回している場合、手当金だけでは生活費が不足する可能性が高いです。
  • ボーナス依存度が高い人:年間の住宅ローン返済や貯蓄をボーナスに頼っている世帯は要注意です。傷病手当金はあくまで「月給」の補填であり、支給されなかったボーナス分を直接補う仕組みはありません。

「額面の約3分の2」という言葉だけで安心せず、年間の総所得(年収ベース)で考えると、実際の保障額は年収の半分程度まで下がる可能性があることを認識しておく必要があります。

自営業・フリーランスは前提が違う

会社員との格差が最も顕著に現れるのが、自営業やフリーランスといった国民健康保険の加入者です。前述の通り、国民健康保険には原則として傷病手当金の制度がありません。つまり、「働けなくなった=即、無収入」に直結します。会社員なら1年半の猶予がありますが、自営業者は初日から貯蓄を切り崩すか、民間保険で備えておく必要があるため、子育て世帯の中でも特に優先順位を高くして対策を考えるべき対象といえます。


就業不能保険・収入保障保険の考え方

「働けないリスク」に備える保険を検討する際、よく混同されるのが「就業不能保険」と「収入保障保険」です。名前は似ていますが、その役割は大きく異なります。

就業不能保険と収入保障保険の役割の違い

この2つは「何が起きたときに支払われるか」という出口が明確に違います。

保険の種類 主な支払い条件(目的)
就業不能保険 病気やケガで「生存しているが働けない」状態の生活費補填
収入保障保険 被保険者が「死亡・高度障害」になった状態の遺族の生活費補填

子育て世帯が「働けなくなったときの収入減」を直接解決したいのであれば、検討すべきは「就業不能保険」です。一方、収入保障保険は死亡保険の一種であり、一家の大黒柱を失った際の備えとして整理しましょう。

月額はいくらあれば足りるのか(考え方のみ)

保険金額を設定する際は、「いくらもらえるか」ではなく「いくら足りないか」を計算します。読者の声から導き出される一般的な算出イメージは以下の通りです。

不足額の目安 =(毎月の最低限の支出)ー(公的保障 + 配偶者の収入 + 貯蓄からの取り崩し分)

例えば、毎月の生活費が30万円の世帯で、傷病手当金が15万円、配偶者のパート収入が5万円ある場合、不足額は10万円です。この場合、就業不能保険で「月額10万円」を確保できれば、生活水準を維持できる計算になります。多くの人が月額10〜15万円程度の設定にするのは、こうした公的保障との兼ね合いに基づいています。

入りすぎになりやすい設計パターン

就業不能保険を検討する際、もう一つ確認すべきなのが「団体信用生命保険(団信)」の特約です。近年、住宅ローンを組む際に「がん保障」や「全疾病保障」などの特約を付けているケースが増えています。これらは「所定の状態になったら住宅ローンの残高がゼロになる」という仕組みです。もし住宅ローンの支払いがなくなるのであれば、その分、保険で備えるべき月々の金額は少なくて済みます。団信の保障内容と重複していないか確認することで、月々の保険料を最適化(節約)できます。


就業不能への備えを考えるときの注意点

「自分には就業不能保険が必要だ」と判断した場合でも、即決するのは禁物です。この保険には、医療保険や死亡保険にはない特有の条件があり、そこを正しく理解していないといざという時に給付金を受け取れない可能性があるからです。

免責期間が長すぎる問題

就業不能保険には、必ず「免責期間」というものが設定されています。これは、働けない状態になってから実際に給付金の支払いが始まるまでの「待機期間」のことです。一般的には60日や180日に設定されていることが多く、この期間内はどれほど困窮していても保険金は1円も支払われません。

免責期間を長く設定すれば保険料は安くなりますが、それは「その期間の生活費を自分で100%準備できていること」が前提となります。自分の貯蓄額(生活防衛資金)と照らし合わせて選ぶことが重要です。

共働き世帯で片方だけ備えるリスク

共働き世帯の場合、「主に稼いでいる側」だけに保険をかけがちですが、これはリスクの片面しか見ていないことになります。例えば、年収が低い側のパートナーが倒れた場合でも、家計全体の収支は悪化します。さらに、そのパートナーが育児や家事の主軸を担っていた場合、外注費用が発生したり、もう一方が看病のために残業を減らして収入が下がったりといった「見えない損失」が生じるためです。どちらかが欠けても家計のバランスが崩れるのであれば、夫婦ペアでの検討や、一方が倒れた際のスリム化プランを事前に話し合っておく必要があります。

次に考えるべき「保険全体の整理」への導線

「働けないリスク」への対策は、家計を守るための一つのパーツに過ぎません。まずは今回整理したように「公的保障で足りない分だけを補う」という合理的な考え方を身につけることが、無駄な固定費を削る第一歩となります。保険を単品で継ぎ足していくと、いつの間にか保険料が家計を圧迫し、肝心の「資産形成(投資など)」に回すお金がなくなってしまいます。リスクに正しく備えられたら、次は家計全体でいくら浮かせられるかという視点で、保険全体の構成を再確認してみましょう。


まとめ

子育て世帯にとって、病気やケガで「働けなくなること」は、家計に長期的なダメージを与える深刻なリスクです。しかし、会社員であれば傷病手当金などの強力な公的保障があり、自営業者であればより自助努力が必要といったように、置かれた状況によって正解は異なります。

  • まず公的保障を知る:傷病手当金で月収の約3分の2は守られる。
  • 不足分を算出する:生活費から「公的保障+配偶者収入」を引いた額が、真の必要額。
  • 制度の穴を埋める:1年半以降の長期療養や、ボーナス分の補填として保険を検討する。

「不安だから入る」のではなく、「この金額が足りないから、この期間だけ補う」という視点を持つことで、最小限のコストで最大限の安心を得ることができます。浮いた保険料を教育資金や新NISAなど将来の備えに回すことこそが、本当の意味での「損をしない資産形成」に繋がります。


【出典・参考情報】

-お金を整える(家計の最適化)