「毎月の保険料、もう少し安くならないかな…」
そう考えていても、いざ見直しとなると「もし解約して、すぐに病気になったらどうしよう」「保障を減らすのが怖い」と足踏みしてしまう声が目立ちます。
特に、結婚や出産、住宅購入などのタイミングで追加加入した結果、「今の自分にとって何が必要なのか分からなくなってしまった」というケースは少なくありません。
「入りすぎ」ている気がするけれど、具体的にどこが無駄なのか判断できない。
これは個人の知識不足ではなく、保険という商品の仕組み上、誰もが陥りやすい悩みです。
本記事では、いきなり「どの保険を削るか」を決めるのではなく、そもそも「入りすぎ」かどうかを自分で判断するための「基準」を整理します。
まずは焦らず、ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
「入りすぎ」に感じる理由は、保険が悪いからじゃない
家計の見直し相談などでよく聞かれるのが、「勧められるがままに入ってしまった」「気づいたら毎月の支払額が増えていた」という声です。
しかし、これは必ずしも「悪い保険」に入らされたからではありません。多くの場合、加入した時点では「必要な理由」があったはずです。
ここではまず、なぜ保険契約は複雑になり、気づかぬうちに「入りすぎ」の状態になってしまうのか、その構造的な理由を解説します。
なぜ保険は“足し算”で増えていくのか
保険契約の多くは、ライフイベントに合わせて「追加(足し算)」される傾向があります。
- 就職したから、まずは基本的な医療保険に。
- 結婚したから、死亡保障を追加。
- 子供が生まれたから、学資保険や保障の手厚いプランへ。
- 家を買ったから、団信(団体信用生命保険)とは別に備えを。
このように、その時々の責任や不安に対して「備えを足す」行動は非常に合理的です。しかし、過去に加入した保険との「重なり」や、公的な保障制度の変化まで細かく計算して「引き算」をする機会は、加入時ほど多くありません。
結果として、古い地層の上に新しい地層が積み重なるように、保障が重複したり、現状には過剰な金額設定のままになったりするケースが生じます。
不安は合理的。でも設計が感情主導になりやすい
「もしもガンになったら」「もしも働けなくなったら」という不安は、生活を守る上で大切な感覚です。
一方で、保険選びにおいては、この「不安」が冷静な計算を難しくさせることがあります。
「日額5,000円で足りるかな? 1万円の方が安心かも…」
「特約を数百円でつけられるなら、念のためつけておこう」
このように、「確率」や「実際の必要額」よりも、「安心感」を優先して選択を重ねていくと、トータルの保険料は膨らみやすくなります。
「安心をお金で買う」こと自体は否定されるべきではありませんが、それが家計の貯蓄力を圧迫し、かえって将来の不安(教育費や老後資金不足)を招いてしまっては本末転倒です。
家族構成が変わると「正解」も変わる
保険の必要性は、家族構成や資産状況によって常に変化します。
例えば、子供が独立した後も、子供が小さかった頃と同じ「数千万円の死亡保障」を持ち続けているケースがあります。
かつては「家族の生活を守るための正解」だったものが、時間の経過とともに「過剰な備え」に変わることは珍しくありません。
「入りすぎ」と感じるのは、過去の自分と今の自分の状況に「ズレ」が生じているサインとも言えます。この違和感を解消するためには、今の自分に必要なサイズを測り直す「判断軸」を持つことが重要です。
生命保険・医療保険が「入りすぎ」か判断する3つの軸
保険証券を並べて「いる・いらない」を悩み始めると、きりがありません。個別の商品を見る前に、まずは以下の「3つのモノサシ(判断軸)」を当てはめてみることで、現状が過剰かどうかが浮き彫りになります。
判断軸①|その保障、何年分をカバーしているか
1つ目の軸は「期間」です。
特に死亡保障(生命保険)において重要ですが、「誰かが生活に困らなくなるまで」の期間は、時間とともに短くなっていきます。
- 子供が生まれた直後: 大学卒業までの約22年分の生活費・教育費が必要
- 子供が独立した後: 夫婦それぞれの老後資金や葬儀費用のみが必要
一般的に、必要な保障額は「右肩下がり」に減っていくのが自然です。
もし、子供が独立しているにもかかわらず、子供が小さかった頃と同じ「数千万円」の保障が続いているなら、それは現在の生活に対して「入りすぎ」の可能性が高いと言えます。「いつまでのリスクに備えるものか」を確認することが第一歩です。
判断軸②|起きる確率と、起きた時のダメージ
2つ目の軸は、リスク管理の基本である「発生頻度(確率)」と「損害の大きさ(ダメージ)」のマトリクスで考えることです。
金融リテラシーの観点で、保険で備えるべきは「起きる確率は低いが、起きたら人生が破綻するほどの大ダメージ」がある事象です。
- 保険で備えるべき例: 世帯主の死亡、火災による家の焼失、他人に大怪我をさせた時の賠償など(数千万円〜億単位の損害)
- 貯金で対応すべき例: 通院による数千円〜数万円の出費、自転車のパンク修理など
「入院したら数万円かかるのが不安」という理由で保険に入りすぎると、毎月の固定費(保険料)が高くなり、いざという時に自由に使える「貯金」が貯まらないという矛盾が生じます。「貯金で払える範囲のトラブル」まで保険でカバーしようとしていないか、見直しが必要です。
判断軸③|貯蓄・公的保障との重なり
3つ目の軸は、すでに強制加入している「最強の保険」=公的保障(健康保険・厚生年金など)を計算に入れているかです。
日本の公的医療保険制度は非常に手厚く設計されています。
- 高額療養費制度: 手術や入院で医療費が100万円かかっても、一般的な所得の会社員であれば、自己負担は約9万円程度(+食事代など)で済みます。
- 傷病手当金: 会社員が病気や怪我で連続して3日以上休んだ場合、4日目から給与の約3分の2が最長1年6ヶ月支給されます。
「医療費は全額自己負担ではない」ことと「働けなくなっても収入がゼロになるわけではない(会社員の場合)」という事実を踏まえた上で、それでも足りない分だけを民間保険で補うのが、無駄のない設計です。
「全部必要そう」に見える保険が重なってしまう構造
「がんに備えたい」「入院に備えたい」「働けない時に備えたい」。それぞれの要望に応える商品は存在しますが、これらを個別に契約していくと、保障内容が重複しがちです。
ここでは、なぜ意図せず「ダブり」が発生するのか、その構造を解説します。
医療保険・がん保険・就業不能保険の役割の違い
これらは名称が異なりますが、「病気」という一つの原因に対して支払われる点が共通しています。
- 医療保険: 病気全般の入院・手術に給付
- がん保険: がん治療に特化して給付
- 就業不能保険: 病気や怪我で働けない状態に給付
例えば「がん」で長期入院した場合、これら3つ全てから給付金が出る可能性があります。
もちろん手厚いのは良いことですが、「医療保険の日額給付」と「がん保険の診断一時金」、さらに「傷病手当金(公的保障)」と「有給休暇」を合わせると、「入院している時の方が、働いている時より手取り収入が多い」という逆転現象が起きるケースもあります。
これは明らかに「過剰(入りすぎ)」な状態と言えます。目的が「損害の補填」であれば、重複部分を整理する余地があります。
特約が増えるほど判断しづらくなる理由
主契約(メインの保障)に数百円程度で追加できる「特約」も、判断を難しくする要因です。
- 先進医療特約
- 女性疾病特約
- 通院特約
- 特定疾病一時金特約
これらは「数百円なら」と気軽に追加しがちですが、積み重なると月額数千円の差になります。また、特約をつけることで「主契約を解約しづらくなる(特約だけ残せない商品が多い)」という心理的なロックイン効果も働きます。
「本当に必要なのは特約部分だけだった」という場合でも、不要な主契約ごと払い続けなければならない構造になっていないか、注意が必要です。
見えない重複:「万が一」を細分化しすぎる問題
保険商品は、不安を細分化して商品化する傾向があります。
「介護への不安」「認知症への不安」「三大疾病への不安」など、ラベルを変えて複数の保険に入っている場合でも、根本的なリスクは「老後の資産減少」や「高額医療費」という点で行き着く先は同じです。
「〇〇専用」の保険を積み上げるのではなく、「大きな出費が必要になった時、手元の現金(貯蓄)と公的保障でどこまで耐えられるか」という総量で考えることで、細分化された保険の重複を防ぐことができます。
入りすぎかどうかは「世帯」で考えないと答えが出ない
保険の見直しにおいて、個人の「お財布」だけで考えると判断を見誤ることがあります。
特に結婚している場合や家族がいる場合は、「世帯全体」でリスクを吸収できるかという視点が不可欠です。
独身・共働き・子ありで答えは変わる
必要な保障額は、ライフステージによって劇的に変化します。
- 独身の方:
自分自身の医療費と、万が一の時の整理資金(葬儀費用など)があれば十分なケースが多いです。扶養家族がいなければ、高額な死亡保障は「入りすぎ」の代表例です。 - 共働き夫婦(子供なし):
片方が働けなくなっても、もう一人の収入で当面の生活が維持できるなら、手厚い保障は不要な場合があります。お互いの貯蓄額や就業状況を共有することが先決です。 - 子供がいる世帯:
もっとも保障が必要な時期ですが、ここでも「遺族年金」の存在を忘れてはいけません。
会社員の夫が亡くなった場合、妻と子には国から「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」が支給されます。これに加え、妻自身の収入があれば、民間保険で備えるべき金額は、イメージしているよりもずっと少なく済む可能性があります。
住宅ローン・教育費との関係
家計の二大支出である「住宅」と「教育」も、保険と密接に関係しています。
- 住宅ローンと団体信用生命保険(団信):
住宅ローンを組む際、多くの人が「団信」に加入します。これは契約者が死亡・高度障害状態になった際、ローン残高がゼロになる保険です。
つまり、住宅ローンを組んだ時点で、これまでの生命保険に含まれていた「住居費分の保障(家賃相当額)」は不要になります。ここを調整せずに保険をかけ続けていると、保障が「二重計上」になり、入りすぎの状態になります。 - 教育費の積立と保険:
学資保険は「貯蓄」と「保障」がセットになっていますが、純粋に資産を増やしたいのであれば、NISAなどの投資制度の方が効率が良い場合があります。「保険で貯める」ことに固執せず、目的を切り分ける視点も大切です。
配偶者に説明できない保険は、整理候補になりやすい
非常にシンプルな判断テストがあります。
今加入している保険について、配偶者やパートナーに「なぜこの保険に入っていて、どんな時にいくら出るのか」を説明できるでしょうか。
もし「よく分からないけど、担当者に勧められたから」「なんとなく安心だから」としか言えないのであれば、それは今の家計にとってブラックボックス化しています。
内容は良い保険だったとしても、「理解できていない支出」は家計管理のリスクです。説明できないものは、一度プロの手を借りて翻訳してもらうか、よりシンプルな商品への整理を検討する候補となります。
判断できた人から「次の段階」に進めばいい
ここまで、「入りすぎ」を判断するための基準をお伝えしてきました。
最後に、これから家計改善を志す方へ、大切な心構えをお伝えします。
今日は決断しなくていい
この記事を読んで「うちは無駄だらけかもしれない」と焦りを感じた方がいるかもしれません。しかし、今日すぐに解約や変更の手続きをする必要はありません。
保険は一度解約すると、健康状態によっては同じ条件で再加入できない場合があります。
まずは、「今の自分には、これくらいの保障が必要なんだ」という基準を持つこと。それだけで、今日のゴールは達成です。
判断軸があれば、整理は後からでも間に合う
「自分なりのモノサシ」さえ持っていれば、更新のタイミングや、ライフイベントの節目に、自信を持って「これは不要です」「ここは残します」と判断できるようになります。
最も避けるべきは、判断基準がないまま不安に駆られ、言われるがままに契約を続けてしまうことです。
まずは「現状を知る」ことから
いきなり完璧な最適化を目指すと疲れてしまいます。
まずは週末にでも、引き出しの奥にある保険証券を出し、今回ご紹介した「3つの判断軸」に照らし合わせてみてください。
「これ、もういらないかも?」という気づきが一つでもあれば、それは将来の資産形成に向けた大きな一歩です。
具体的な「見直しの手順」や「解約のタイミング」については、また別の記事で詳しく解説します。まずはご自身の現状を、優しい目でチェックすることから始めてみましょう。