お金を整える(家計の最適化)

生命保険・医療保険の整理術|入りすぎを前提に「何をどう残すか」の考え方

「毎月の保険料が高い気がするけれど、万が一の時に足りなかったら怖い……」
そう話すBさん(30代・会社員)のように、保険に入りすぎている自覚はあっても、具体的にどれを解約していいか分からず、そのまま払い続けているケースは少なくありません。

「解約=保障を失う」と考えると不安になりますが、視点を変えて「必要な保障を再設計する」と考えれば、適切な判断ができるようになります。
家計改善において重要なのは、単に支払額を減らすことではなく、現在の生活と将来のリスクに対して過不足のない状態を作ることです。

本記事では、手元の保険証券を整理し、自分にとって「残すべき保険」と「手放してもよい保険」を見極めるための具体的な手順を解説します。難しい金融用語は使わず、一つずつステップを踏んで進めていきましょう。

整理は「全部並べる」から始めないと失敗する

保険の見直しで最も多い失敗は、手元にある記憶や通帳の引き落とし履歴だけで判断してしまうことです。
「この医療保険は月2,000円だから安いし残そう」「これは高いから解約しよう」といった金額ベースの判断は、重要な保障を誤って手放すリスクがあります。

まずは家の中にある全ての情報を一箇所に集めることから始めます。これは料理をする前に、冷蔵庫の中身をすべて調理台に出す作業に似ています。

証券を集めずに始めると何が起きるか

保険証券や契約内容のお知らせを確認せずに見直しを進めると、以下のような「見えない重複」や「意図しない消失」が発生しやすくなります。

  • 重複の未発見: 別の保険についている「特約」でカバーできているのに、新たに別の保険に入り続けてしまう。
  • 保障の空白: 古い保険の方が条件が良い(予定利率が高い、保障範囲が広いなど)ことに気づかず、新しい割高な保険に切り替えてしまう。
  • 解約の連鎖: 「高いから」と解約した保険に、実は自分だけが入れた好条件の特約が付帯していたことに後から気づく。

これらを防ぐために、まずはタンスやファイルに入っている「保険証券」をすべて机の上に広げてください。ご家族がいる場合は、家族全員分を一度に出しましょう。

主契約と特約を分けて見る理由

証券を見るときに注意したいのが、「主契約」と「特約」の違いです。日本の生命保険、特に過去に加入したセット商品(パッケージ型保険)は、この構造が複雑になっていることが多々あります。

  • 主契約(メインの保障): その保険の土台。解約すると全てなくなります。
    (例:終身保険、養老保険など)
  • 特約(オプションの保障): 主契約に上乗せされているもの。
    (例:入院特約、がん特約、通院特約など)

「医療保険だと思っていたけれど、実は死亡保険(主契約)に医療のオプション(特約)がついているだけだった」というケースは非常によくあります。この場合、主契約である死亡保障を解約すると、医療保障も道連れで消滅します。
逆に、「主契約は残して、不要な特約だけを外す(=保険料を下げる)」という選択肢もあります。これを見極めるためには、証券の記載を細かく確認する必要があります。

保険の全体像を一度フラットにする

集めた情報を整理するために、シンプルな一覧表(またはメモ)を作成することをおすすめします。頭の中だけで整理しようとせず、以下の項目を書き出してみましょう。

【保険整理用チェックリスト】

項目 確認ポイント
保険会社・商品名 どこで何に入っているか
契約者・被保険者 誰のための保険か
主契約の内容 何が起きたらいくら出るか(死亡〇〇万円など)
特約の内容 入院〇〇円、がん〇〇万円など
保険期間 いつまで保障されるか(終身、10年更新、60歳までなど)
毎月の保険料 実際の負担額

参考情報
保険証券が見当たらない場合や、内容が読み解けない場合は、各保険会社のコールセンターやWebサイトの契約者専用ページで「契約内容のお知らせ」を取り寄せる・確認することが可能です。
(出典:生命保険文化センター「生命保険に関するQ&A」

ここまで準備ができたら、次はそれぞれの保険が「何の役に立つのか」を分類していきます。

生命保険と医療保険は、役割ごとに切り分ける

一覧表ができたら、次に行うのは「役割の仕分け」です。
多くの人が「なんとなく不安だから」と複数の保険に入っていますが、保険がカバーできるリスクは大きく分けて3つしかありません。手元の保険がどれに当てはまるか、タグ付けしていくイメージで進めます。

死亡保障・医療保障・収入保障を混ぜない

保険商品は複雑な名前がついていますが、機能で分けるとシンプルになります。

  1. 死亡保障(遺族のため):
    自分が亡くなった後、家族が生活に困らないためのお金。独身の場合や、十分な貯蓄がある場合は優先度が下がります。
  2. 医療保障(治療費のため):
    病気やケガで入院・手術をした際の出費を補うもの。日本の公的医療保険制度(高額療養費制度など)があるため、実際のリスクは想像より低い場合があります。
  3. 収入保障・就業不能保障(生活費のため):
    働けなくなった期間の生活費を補うもの。傷病手当金などの公的保障がベースになりますが、自営業の方などは重要度が高まります。

「1つの保険ですべてまかなっている」というセット保険の場合、実はそれぞれの保障額が中途半端だったり、割高だったりすることがあります。まずは「これは死亡用」「これは医療用」と役割を明確に書き込みましょう。

「なんとなく不安」を役割に翻訳する

「将来が不安」という漠然とした悩みは、具体的なリスクに翻訳することで、保険が必要かどうかが判断できるようになります。

  • 「入院したら貯金が減るのが怖い」
    【医療保障】の領域。ただし、貯金で数十万円払えるなら保険は不要かもしれません。
  • 「子供がまだ小さいのに、自分が死んだら路頭に迷う」
    【死亡保障】の領域。教育費と生活費を計算し、不足分だけをカバーします。
  • 「老後の生活費が足りないかも」
    → これは「保険」ではなく【貯蓄・投資】の領域(個人年金保険などはありますが、資産形成の手段として比較検討が必要です)。

このように「何の不安を消すための商品か」を言語化すると、重複している部分や、逆に保険では解決できない部分が見えてきます。

保険種類ごとの整理の視点

役割がはっきりしたところで、種類ごとに「整理の視点」を持ちましょう。

  • 更新型(定期保険など)の場合:
    「10年ごとに保険料が上がる」タイプは要注意です。現在は支払えていても、将来的に負担が倍増する可能性があります。「更新時期」を必ず確認し、本当にその年齢までその保障額が必要か問いかけましょう。
  • 終身型(一生涯続く保険)の場合:
    保険料は一定ですが、若い頃に契約した内容は、現在の医療事情(入院日数の短期化など)に合っていないことがあります。「昔入ったから安心」と思い込まず、現代の治療実態に即しているか確認が必要です。
  • 積立型(貯蓄性のある保険)の場合:
    「解約すると元本割れするから」とやめられないケースが多いですが、低い利率で資金が拘束されること自体がリスク(機会損失)になる場合もあります。「保障」と「貯蓄」を分けて考える視点が重要です。

優先順位を決めると、残す保険が自然に見えてくる

保険証券を並べ、役割を分類したら、いよいよ「選別」のフェーズに入ります。
ここで最も重要な判断基準は、「貯金でカバーできるかどうか」という一点です。

保険とは本来、「起きてしまったら生活が破綻するような大きな経済的リスク」に備えるための道具です。逆に言えば、貯金で賄える範囲のトラブルであれば、保険料を払って備える必要性は低くなります。

最初に残すべき保障の考え方

最優先で残すべきなのは、「起きた時の金額的ダメージが数千万円〜億単位になり、貯金では絶対に賄えないリスク」です。

  1. 世帯主の死亡保障(お子さんが独立するまで):
    万が一の際、残された家族の生活費や教育費が数千万円単位で不足する場合、これは保険でしか埋められません。掛け捨て型の定期保険などで、安く大きな保障を確保することが「守り」の基本です。
  2. 自動車保険・火災保険(損害賠償):
    (※生命保険ではありませんが、家計全体で見ると最優先級です)
    他人への賠償は億単位になる可能性があり、個人の資産では対応不可能です。

これらは「使う確率は低くても、起きたら終わり」という性質のものであり、ここを削るのは最後にするべきです。

後回しにできる保障の特徴

逆に、優先順位を下げられる(見直しの余地が大きい)のは、「公的制度や貯金で対応可能なリスク」です。

代表的なのが過度な「医療保障」です。日本には「高額療養費制度」という強力なセーフティネットがあります。年収によって異なりますが、一般的な会社員であれば、ひと月の医療費負担は約8〜9万円(+食事代・差額ベッド代など)で済みます。
(出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

もし手元に100万〜200万円程度の緊急予備資金(生活防衛資金)があるなら、日額5,000円や10,000円の医療保険に毎月高い保険料を払い続ける必要性は薄れます。「医療費は貯金から出す」と割り切ることで、固定費を大きく下げることが可能です。

「全部必要そう」に見える錯覚の正体

整理をしていると「でも、がんになったら困るし」「先進医療も受けるかもしれない」と、全てが必要に見えてくることがあります。これは「発生確率」と「経済的影響」を混同してしまうためです。

  • 「2人に1人ががんになる」 → 発生確率は高いですが、全員が高額な治療費で破産するわけではありません。多くは公的保険の範囲内で治療が進みます。
  • 「先進医療は数百万円かかる」 → 確かに高額ですが、実際に先進医療を受ける確率は非常に稀です(先進医療特約自体は月百円程度と安価なため、これだけ残すのは有効な戦略の一つです)。

「不安だから入る」のではなく、「貯金が減るのが嫌だから保険料というコストを払ってリスクを移転する」という割り切りを持つと、手放すべきものが見えやすくなります。

整理で失敗しやすい人の共通パターン

「よし、解約しよう」と決心した時にこそ、冷静さが必要です。
勢いで手続きをしてしまい、後から「しまった!」と後悔するケースには共通点があります。ここでは代表的な3つの失敗パターンを押さえておきましょう。

保険料だけで切ってしまう

「月1万円の保険は高いから解約、月1,000円の保険は安いから継続」というように、金額だけで判断するのは危険です。

  • 高いけれど優秀な保険: 過去に加入した「お宝保険(予定利率が高い貯蓄型保険)」などは、今の低金利時代には二度と入れない好条件の商品である可能性があります。
  • 安いけれど不要な保険: 月数百円の特約でも、何十年も払い続ければ大きな額になります。使わない保障にちりつもでお金を払っていないか確認が必要です。

金額の大小ではなく、「その保障内容(対価)が適正か」「自分に必要か」で判断しましょう。

一気に決断しようとする

見直しを決意すると、すぐに今の保険を解約したくなりますが、「新しい保険の契約が成立してから、古い保険を解約する」のが鉄則です。

健康状態によっては、新しい保険に入れない(審査に通らない)可能性があります。先に解約してしまい、新しい保険にも入れず「無保険」になってしまうのが最悪のパターンです。
また、解約返戻金があるタイプの場合、解約のタイミング(月単位)で戻ってくる金額が変わることもあります。数日の差で損をしないよう、スケジュールを確認しましょう。

他人の正解をそのまま当てはめる

SNSや雑誌で「この保険が最強」「医療保険は不要」といった意見を目にしますが、それをそのまま自分に当てはめるのはリスクがあります。

  • 「医療保険不要論」は、十分な貯金があることが前提の議論です。貯金がゼロに近い人が真似をすると、入院即借金のリスクがあります。
  • 「独身最強の保険」は、扶養家族がいる人には全く足りません。

「あの人にとっては正解」でも、「自分にとっては不正解」かもしれません。他人の意見は参考にしつつ、最終的には「自分の家計状況」と「家族構成」を基準に決定してください。

整理が終わったら、次に考えるべきこと

保険の整理がひと段落し、毎月の固定費が軽くなったとしても、そこで終わりではありません。浮いたお金が「なんとなく」消えてしまっては、家計改善の効果が半減してしまいます。
保険の見直しは、家計全体を最適化するための最初の一歩です。

本当に見直すべきは「保険」だけか

保険証券と向き合い、「必要・不要」を判断できた今のあなたには、他の固定費を見極める目も養われています。
保険と同じように、「なんとなく契約し続けているもの」はないでしょうか。

  • 通信費: 大手キャリアのまま、ほとんどデータを使っていない。
  • サブスクリプション: 初月無料だからと登録し、観ていない動画配信サービス。
  • 年会費:** 使っていないクレジットカードやジムの会費。

これらは保険と違い、解約しても「万が一の保障」がなくなるわけではありません。保険の整理という「重たい作業」をクリアできた勢いで、他の固定費も断捨離することをおすすめします。

固定費全体で考える意味

家計管理において、保険料は「固定費」の一部です。
例えば、保険の見直しで月5,000円、通信費の見直しで月3,000円、合計8,000円が浮いたとします。これを年間で考えると96,000円、10年では約100万円もの差になります。

重要なのは、個別の節約額ではなく「生活レベルを下げずに、毎月の手残りをどう増やすか」という全体の視点です。固定費の見直しは、一度行えば効果がずっと続くため、日々の食費を切り詰めるよりも精神的な負担が少なく、効果も絶大です。

行動できた自分を止めない設計

最後に、保険の見直しで浮いたお金の「行き先」を決めておきましょう。
人間は余裕ができると、ついその分を使ってしまう生き物です(パーキンソンの法則)。

  • 貯蓄不足の人: 浮いた分を「先取り貯蓄」の設定に回し、生活防衛資金を作る。
  • 貯蓄がある人: つみたてNISA(iDeCo)などの「投資」へ回し、将来のための資産形成を加速させる。

「保険料として払っていたつもり」で、同額を積立投資に回すだけで、数十年後の資産額は大きく変わります。
保険を整理することは、単なるコストカットではなく、未来の自分への仕送りを増やすためのポジティブな転換点なのです。

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