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国内不動産は高いのに国内リートが安い本当の理由──金利・投資資金・オフィス需要から“乖離”を読み解く

「都心のマンション価格は過去最高値を更新」というニュースが連日報じられる一方で、投資商品である「J-REIT(国内不動産投資信託)」の価格は低迷が続いています。

「不動産の価値が上がっているなら、不動産に投資するリートも上がるはずでは?」

これから資産形成を考える方にとって、この動きは非常に不可解に映ります。SNS上でも「リートは割安だと思って買ったのに、まだ下がっている」「実際の不動産価格と動きが違いすぎて怖い」といった戸惑いの声が少なくありません。

実は、私たちが目にする「マンション価格」と「リート価格」の間には、価格が決まるルールに大きな違いがあります。この“乖離(かいり)”の正体を知らずに「なんとなく安そうだから」と手を出すと、思わぬ損失を抱える可能性があります。

本記事では、なぜこのねじれ現象が起きているのか、その「本当の理由」を3つの視点(金利・海外資金・需要)から分かりやすく整理します。

国内不動産は高値なのに、なぜ国内リートは安いのか?“乖離”が起きる構造

実物の不動産市場は活況なのに、リート市場は冷え込んでいる。この現象を理解するには、まず両者の「価格の決まり方」の違いを知る必要があります。

実物不動産とリート市場は「価格が決まるルール」が違う

私たちが普段ニュースで目にする「マンション価格の高騰」は、主に「実需(実際に住みたい・買いたい人)」と「供給(売り出される物件数)」のバランスで決まります。建築資材の高騰や、富裕層による購入意欲が価格を押し上げているのが現状です。

一方、J-REIT(リート)は「金融商品」です。株式と同じように証券取引所で売買されるため、価格は「その不動産がどれだけ収益(配当)を生むか」という投資家からの期待値で決まります。つまり、いくら立派なビルを持っていても、投資家が「他の金融商品(株や国債)の方が儲かる」と判断すれば、リートは売られ、価格は下がります。

私たちが感じる「マンションの高さ」と投資家が見る「リートの安さ」

プロの投資家は、リートの割安度を測るために「NAV倍率(ナブばいりつ)」という指標を使います。これは、リートが保有している不動産の「純粋な価値」に対して、現在の「取引価格」が何倍かを示すものです。

  • 1倍以上: 保有不動産の価値より、高く評価されている(人気がある)
  • 1倍未満: 保有不動産の価値より、安く放置されている(不人気)

現在、多くの銘柄でこの数値が1倍を割り込んでいます。これは、「保有しているビルやマンションをすべて売却して現金化・分配したほうが、今のリート価格よりも高くなる」という異常事態です。読者から見れば「お買い得」に見えますが、投資の世界では「それだけ将来のリスクが警戒されている」というシグナルでもあります。

リート価格は「今の価値」ではなく「未来の期待」で動く

実物の不動産価格は、現在の取引事例の積み上げで決まるため、動きが緩やかです。対してリート価格は、半年先、1年先の景気や金利を織り込んで「今」動きます。

「今はまだ不動産価格が高いけれど、将来的には下がるかもしれない」
「今は金利が低いけれど、来年は上がるかもしれない」

こうした未来の懸念を先取りして下落しているのが、現在のリート市場の特徴と言えます。

参考データ
不動産証券化協会(ARES)のレポート等では、J-REIT市場全体が保有不動産の鑑定評価額に対して割安な水準(ディスカウント)にある状況が指摘されています。
出典:不動産証券化協会/ARES J-REIT View/2024年確認

リート安値の最大要因は「金利上昇」──利回り競争と借入コスト

今回のリート価格低迷の最大の犯人は「金利」です。ニュースで聞く「長期金利の上昇」や「日銀の政策変更」は、私たちの住宅ローンだけでなく、リート価格にダイレクトな打撃を与えています。

「国債」の利回りが上がると、「リート」の魅力が薄れる仕組み

投資家は常に「リスク」と「リターン」を天秤にかけています。

  • 日本国債: 国が破綻しない限り元本が戻る「安全資産」。利回りは低い。
  • J-REIT: 価格変動リスクがある「リスク資産」。その分、高い利回りが期待される。

これまで日本の国債利回りはほぼゼロ%でした。そのため、利回りが3〜4%あるリートは非常に魅力的でした。
しかし、金利が上昇し、国債でも1%前後の利回りが得られるようになると、投資家はこう考えます。「わざわざリスクのあるリートを買わなくても、安全な国債でいいのではないか?」

この心理が働き、リートが売られやすくなっているのです。

借金の金利負担が増え、投資家に配る利益が削られる

リートの運営法人は、投資家から集めたお金だけでなく、銀行から多額の借金(借入金)をして不動産を購入しています。これをLTV(借入金比率)と呼び、多くのリートで資産の40〜50%程度を借金でまかなっています。

金利が上がると、この借金の返済利息が増えます。

  • 金利上昇 → 支払う利息が増える → 手元に残る利益が減る → 投資家への「分配金」が減る

分配金が減れば、投資商品としての魅力はさらに下がります。この「将来の減配リスク」を嫌気して、価格が押し下げられています。

金利の影響は「実物不動産」よりも「リート」に早くダイレクトに出る

「金利が上がれば、マンション価格も下がるのでは?」と思うかもしれません。確かに長期的にはその可能性がありますが、実物不動産は個人の「住む場所が必要」という実需に支えられているため、価格が下がるまでには数年単位の時間がかかります(価格の遅行性)。

一方でリートは、クリック一つで売買できる証券市場にあるため、金利ニュースが出たその瞬間に価格が反応します。このスピード感の違いが、冒頭の「不動産は高いのにリートは安い」というねじれを生んでいるのです。

要点整理:金利とリートのシーソー関係
・金利が上がる ⤴
・借入コスト増・相対的な利回り魅力の低下
・リート価格は下がる ⤵
※一般的に金利上昇局面はリートにとって逆風とされますが、同時に「好景気による賃料上昇」が伴えば価格は回復します。現在は「賃料上昇」よりも「金利不安」が勝っている状態と言えます。
出典:日本証券業協会「J-REITの仕組み」金融庁「NISA特設サイト」等で基礎的な仕組みを確認

海外投資家の資金流出がリートを押し下げる──“売り手の論理”が価格を決めている

「日本の不動産なのだから、日本人が買っているのでは?」と思われがちですが、実はJ-REIT市場の売買シェアの6〜7割は「海外投資家」が占めることもあります。
彼らが日本市場から資金を引き揚げていること(売り越し)が、価格低迷の大きな要因です。

日本のリート市場を動かしているのは、実は「海外勢」

海外の機関投資家(年金基金やヘッジファンドなど)にとって、J-REITは世界中に数ある投資先の一つに過ぎません。彼らは非常にシビアに「今、世界のどこにお金を置くのが一番効率的か」を判断します。

日本の個人投資家が「利回りが4%もあってお得だ」と感じても、海外投資家が「日本市場はもう儲からない」と判断して大量に売り注文を出せば、価格は抗えずに下がってしまいます。現在の安値は、この「売り圧力」が「買い需要」を上回っている状態です。

円安・金利差による資金シフトの仕組み

なぜ海外投資家は売っているのでしょうか。理由はシンプルに「金利差」です。

例えば、アメリカの国債などの安全資産で4〜5%の利回りが得られる状況だとします。日本のリートでリスクを取って4%の利回りを得るよりも、母国で安全に運用した方が合理的です。
さらに「円安」も影響します。ドルベースで資産評価をする彼らにとって、円の価値が下がることは、そのまま資産目減りを意味します。「金利が低く、通貨も弱い日本」から資金を抜き、他の国へ移す動きが加速したのです。

投資信託(ETF)の解約売りが招く「連鎖安」

もう一つ、市場特有のテクニカルな要因として「ETF(上場投資信託)の売り」があります。
銀行や証券会社が運用するパッケージ商品(ETF)から資金が流出すると、そのETFを構成している個別のリート銘柄も、機械的に売らざるを得なくなります。

「良い物件を持っているリート」であっても、市場全体の資金抜けによって十把一絡げ(じっぱひとからげ)に売られてしまう。これが、優良銘柄まで値下がりしている背景です。

キーワード:グローバル資金の逆流
世界的な金利上昇局面では、資金は「低金利国(日本)」から「高金利国(米国など)」へ流れます。J-REITの回復には、この資金の流れが変わる(米国の利下げや日本の金利正常化による格差縮小)ことがカギとなります。
出典:日本取引所グループ「投資部門別売買状況」/各証券会社マーケットレポート等を参照

オフィス需要の低迷・空室率上昇──収益不安がリート価格を重くする

金融やマネーの話だけでなく、リートの足元である「不動産賃貸業」としての実力にも懸念が生じています。特にJ-REIT市場で最も比率が高い「オフィスビル」の不調が、全体ムードを重くしています。

リモートワーク定着がオフィス系リートに与えた衝撃

コロナ禍を経て、多くの企業でリモートワークやハイブリッドワークが定着しました。「全員が出社しないなら、こんなに広いオフィスはいらない」と、賃貸契約面積を縮小したり、解約したりする動きが続いています。

また、東京都心では2023年から2025年にかけて大規模なオフィスビルの新規供給(大量竣工)が重なりました。
「借りたい企業は減っているのに、新しいビルはどんどん建つ」という需給の緩みが起きており、古いビルや競争力の低いビルからテナントが流出しています。

「空室」が増えると、私たちの受け取る「分配金」はどうなるか

空室率の上昇は、投資家にとって2つの痛手となります。

  1. 賃料収入の減少: 単純に家賃が入ってこない部屋が増えるため、売上が減ります。
  2. 賃料の値下げ圧力: 空室を埋めるために「家賃を下げてでも入ってもらう」必要が出てきます。

これが続くと、リートの利益が圧迫され、結果として投資家への「分配金」が減額されます。今のリート価格の安さは、この「将来、分配金が減るかもしれない」というシナリオを織り込んでいるのです。

ひとくくりにはできない?物流・住宅・ホテルなど種類別の温度差

ただし、すべてのリートがダメなわけではありません。ここが重要なポイントです。

  • オフィス系: 上記の通り、需給悪化で厳しい見方が多い。
  • ホテル系: 観光需要の復活(インバウンド)により、宿泊単価が上がり絶好調な銘柄も。
  • 住居(マンション)系: 景気に左右されにくく、家賃も底堅いため安定的。
  • 物流施設系: 通販拡大で需要はあるが、供給過多の懸念も一部で出ている。

ニュースでは「リート全体」が下がっているように見えますが、中身を見ると「オフィスへの不安」が全体を引っ張っている側面が強いのです。

データで見る空室率
都心5区のオフィス空室率は、貸し手優位の目安とされる「5%」ラインを意識する攻防が続いています。オフィスの「2025年問題(大量供給)」の影響を市場は慎重に見極めています。
出典:三鬼商事「オフィスマーケットデータ」等を確認

国内リートは今後どうなる?金利・市況・需給から3つのシナリオを提示

ここまで「安くなっている理由」を見てきましたが、投資家が最も気になるのは「これからどうなるのか」という点でしょう。市場で議論されている3つのシナリオを整理します。

シナリオ① 金利安定 → リート緩やか回復

最も期待されているメインシナリオです。日銀の利上げペースが緩やかになり、「金利はこれ以上急騰しない」という安心感が広がれば、投資家は戻ってきます。

「利回りが4〜5%取れるなら、国債より魅力的だ」という再評価が進み、過度な安値から適正価格へと修正されていくパターンです。

シナリオ② 景気悪化 → オフィス空室率悪化で低迷継続

警戒すべきシナリオです。金利上昇によって企業の業績が悪化し、オフィス解約がさらに増えるケースです。
この場合、いくらリート価格が安く見えても、「分配金そのものが減る」ため、株価の回復には時間がかかります。特にオフィス系リートにとっては厳しい冬の時代が続く可能性があります。

シナリオ③ 海外資金回帰・ETF買い増しで「割安修正」

ポジティブなサプライズシナリオです。アメリカの金利が下がり、日本の金利との差が縮まれば、海外へ逃げていた資金が日本へ戻ってくる(円高・株高)可能性があります。
また、割安になりすぎたJ-REITを狙って、企業買収やM&Aが活発化することで、市場全体が活性化する展開も一部で予想されています。

個人投資家はどう向き合うべきか?──中立的に考える判断軸

最後に、私たち個人投資家がこの状況でどう行動すべきか、損を避けるための判断軸を整理します。

インカム vs キャピタル、リートの捉え方を誤解しない

まず大前提として、リートは「短期間で価格が2倍、3倍になる」ような商品ではありません。本来は「家賃収入をコツコツ受け取る(インカムゲイン)」ための道具です。

価格(キャピタルゲイン)の下落ばかりに目が行きがちですが、「安くなったことで、分配金利回りが高まっている」という事実は、長期保有を前提とする投資家にとってはチャンスとも捉えられます。

逆張りで“安い理由”を分析する視点の重要性

投資の格言に「人の行く裏に道あり花の山」とあるように、みんなが悲観して売っている時こそ、冷静な分析が必要です。

  • 「オフィスは不安だけど、住宅系リートなら安心できそうだ」
  • 「都心の一等地のビルが、実勢価格の半値(NAV0.5倍など)で評価されているのは安すぎる」

このように、「理由のない暴落」ではなく「理由のある下落」だからこそ、その理由が解消されるタイミングを見極めることができれば、賢明な投資判断につながります。

NISA・積立での扱い方

初心者の方にとって、一点集中投資はリスクが高すぎます。もしリートへの投資を検討する場合は、以下の方法でリスクを分散させるのが王道です。

  • NISA(成長投資枠)の活用: リートの最大の魅力である「高い分配金」が非課税になるメリットは大きいです。
  • ETFや投資信託での積立: 個別の銘柄を選ばず、「東証REIT指数」全体に連動する商品を買うことで、オフィス・住宅・ホテル・物流などに丸ごと分散投資できます。
  • 時間分散: 「今が底だ!」と決めつけず、毎月定額をコツコツ買うことで、高値掴みを防げます。

「不動産が高いのにリートが安い」という異常事態は、市場の歪みです。この歪みがいつ解消されるかはプロでも分かりませんが、仕組みを理解していれば、過度に恐れることなく、ご自身のライフプランに合った距離感で付き合うことができるはずです。

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